内村鑑三は近代日本を代表する思想家です。
彼の日本人に関する思想をまとめた本が「代表的日本人」になります。
明治維新以降の日本人は幾度も戦争に勝利したことにより、好奇と偏見の目で見られていました。
そんな世界中の人々に、本来の日本人とはどのような人間であるかを説いたのです。
この記事では、そんな内村鑑三の「代表的日本人」について解説していきます😆
内村鑑三とは
内村鑑三(1861-1930)は日本の文学者・伝道者であり、キリスト教思想家です。
キリスト教における無宗教主義を唱えた人物でもあり、彼の思想は多くの人に影響を与えました。
彼の著書には「代表的日本人」「後世への最大遺物」などがあります。
東京で生まれ育った内村は、1877年に札幌農学校に入学します。
その翌年には洗礼を受け、キリスト教徒になり、キリスト教への信仰を深めていきます。
1885年にはアメリカのアマースト大学に留学し、数多くの海外経験をします。
留学時はあまり良い思いをしなかったことが著書で語られています。
これは、当時の日本が日清戦争などの戦争活動に邁進していたことが原因であり、日本人本来の平和的思想がまだアメリカ人には伝わっていなかったようです。
近代化する日本と自分の姿を重ねられることが苦しかった内村は、「代表的日本人」を書くことで、世界の人々に”本来の日本人の心”を伝えようとします。
内村鑑三「代表的日本人」の解説
「代表的日本人」では、5人の代表的な日本人を紹介することで、本来の日本人的精神を紹介しています。
エマーソンという人物の「代表的人間像」という、6人の代表人を紹介する本にならって、内村はこの本を作ったとされています。
以下の思想を軸に、内村はこの本を書き上げます。
- 自分を愛するほど、自分と同じく他人にも愛するモノがあることを知れる
- 日本に大事なモノがあるということは、世界にも大切なモノがあることを知れる
彼は、自分の国の文化を深く知ることで、世界について理解しようとしたのです。
以降、その代表的な5人の日本人に関して説明していきます。
西郷隆盛
西郷隆盛は幕末を牽引した武士・軍人・政治家です。
薩長同盟による明治維新の先導や、江戸城の無血開城などに貢献した、幕末時代の英雄です。
彼から学ぶべきポイントは、天を待つ姿勢です。
西郷は、やるべきことをやるとき、待つことが重要であることを知っていました。
事実彼は、無欲で控えめ、常に何かを待っているような人間でした。
例えば、13年間一緒に暮らしていた人が、一度も彼が下男を叱っているのを見たことがないというのだから驚きです。
そんな彼は、天の声を非常に大切にしていました。
天命を自分に人生の軸にしており、自分にできることを全てしたら、あとは天命を待つ、という姿勢をとっていたのです。
だからこそ、数多くの偉業をなしとげ、日本の成長に貢献することができたのでしょう。
人事を尽くして天命を待つ姿勢は、日本人の特徴の1つなのです。
上杉鷹山
上杉鷹山は江戸時代中期の大名で、米沢藩9代藩主です。
彼は行政改革者として、藩の巨額の負債をなくし、貧困で苦しむ領民を救い出します。
彼から学ぶべきポイントは、以下の2つです。
- 自己に天から託された民
- 経済と道徳を分けない
領民に対して非常に粗末な態度をとる藩主が多くいた時代において、上杉鷹山は民を非常に大切に扱いました。
天(おおいなるもの)から預けられている民を、捨てたり粗末に扱うことは彼の道徳心に反していたのです。
彼は籍田の礼という儀式を通して、自らも農業に加わり、領民を励ましました。
経済と道徳を分けずに考える姿勢も非常に重要なポイントです。
経済とは生産性や収入などの、現実的な生活に関するものです。
道徳とは人々が感じる意味や価値などの、かけがえのないものです。
上杉鷹山はこの両者の両立を目指し、領民の仕事をかけがえのないものにしようとしました。
結果的に、彼の献身的で道徳心に溢れた態度は領民の心をうち、米沢藩はいくつもの試練を乗り越えたのでした。
彼が亡くなった際は、領民や藩士問わず、多くの人が感謝の涙を流しました。
二宮尊徳
二宮尊徳は江戸時代後期の農政家・思想家です。
普通の家出身でありながらも、地域の改革を指導するまでに至った彼は、とても有名です。
彼は勤勉と労働の人間であり、また常に民を優先し自分を後回しにする姿勢を持っていました。
内村は、彼から学ぶべきポイントは誠実さである、といいます。
二宮尊徳は常に無私であり、人のため民のために行動します。
仕事の優劣や上下関係も全て破壊し、勤勉に努力をしている人には地位に関係なく褒美を与えました。
指示を出す指導者ではなく、根っこ掘りの男に最大の勲章と報酬を与えるのです。
内村は以下のように表現しています。
ただ「誠実」だけで、これほど素晴らしい成果をもたらした話は、かつて聞いたことがありません。
どんなにとるに足らない、見くびられている人間でも、「天」にしたがいさえすれば、このような大事業を成し遂げることができるのです。
内村鑑三「代表的日本人」
中江藤樹
中江藤樹は江戸時代初期の陽明学者です。
江戸時代という士農工商の身分制度がある時代でありながらも、身分の上下を超えた平等思想を説いた彼もまた、多くの人々に愛された人物でした。
中江藤樹は教育者として私塾を開きます。
彼が教えていたのは、中国の古典・歴史・作詩・書道でした。
これらは一見すると網羅的ではなく、学識に欠けるように思われます。
しかし、そこには中江の考える、そして内村にも通ずるある思想がありました。
中江は、真の学者とは徳によって得られる名であり、学識によるものではない、ということを主張します。
逆に学識だけある人はただの人なのです。
全員が彼の教える教科を完全にマスターすることに、全く価値はありません。
先生の持っている知識を全て吸収したら、学者になれることはないのです。
中江は教え子たちに、自分の”独立”を見習うように、と指示します。
私は私であり、あなたはあなたです。
先生と同じ人間になることに意味はなく、一人ひとり個性があるから意味があるのです。
見習うべきは学識ではなく、姿勢なのです。
本当の意味で優れた人間とは何かを教えてくれる彼の姿勢を、内村は高く評価しました。
日蓮
日蓮は鎌倉時代の仏教僧であり、日蓮宗の開祖です。
仏教の最盛期であった鎌倉時代に、革命的な思想を生み出し、多くの人々を幸福に導いた彼も代表的日本人の1人です。
内村と日蓮は非常に似たような人生を歩んでいます。
日蓮は仏教僧として、南無妙法蓮華経という新たな概念を生み出します。
これは大乗仏教に属する思想であり、お経の言葉を本気で信じて唱えれば、それであなたは救われる、という教えを説きます。
厳しい修行を乗り越えなければ悟りは開けず、救われもしないと考える部派仏教とは違い、彼の教えは多くの民衆が救われる思想でした。
まさに万人救済のための宗教なのです。
内村はキリスト教信者として、無教会を説きます。
キリスト教を本気で信じていれば、教会も教義も必要ない、と考える思想です。
これもまた、教会に行けないような人や教義が読めないような人を救う、万人救済の思想です。
両者はともに、より多くの人々の幸福を願って自らの天命をまっとうした人物でした。
後世への最大遺物
内村鑑三は「代表的日本人」や「後世への最大遺物」などの著書を通して、我々に何を伝えようとしているのでしょうか?
それは、何者でもない人間でも、後世に残すことができるものがあるということです。
人間が人生をかけて残せるものは何でしょうか?
金銭・事業・思想などは残すことができます。
これらが残ることで実際に救われる人もいるでしょう。
しかし、内村が特に主張したのが、”高尚なる勇ましい生涯”でした。
高尚なる勇ましい生涯
内村は、何もない人であっても後世に残せるものがある、それが高尚なる勇ましい生涯である、と説きます。
高尚なる勇ましい生涯とは何でしょうか?
彼の言葉を借りると、以下のようになります。
高尚なる勇ましい生涯とは何か…
すなわちこの世の中はこれはけっして悪魔が支配する世の中にあらずして、神が支配する世の中であるということを信ずることである
失望の世の中にあらずして、希望の世の中であることを信ずることである
この世の中は悲嘆の世の中でなくして、歓喜の世の中であるという考えをわれわれの生涯に実行して、その生涯を世の中への贈り物としてこの世を去るということであります。
内村鑑三「後世への最大遺物」
人生を通して希望を持って全力で生き抜くこと、これこそが人間が残せる最大の遺物なのです。
日本に足りないもの
現代の日本人に足りないものは何でしょうか?
金銭でしょうか?優れた学問でしょうか?
内村の答えは、生命(life)でした。
現代の日本人の問題点は、”生命の欠乏”なのです。
生命とは他者や歴史、天などとの関係性によって成り立ちます。
生命とは、他者・超越・歴史との関わりである
他者=目の前にいる人、同時代を生きる人
超越=天と私の関係
歴史=亡くなった人、過ぎ去った時間
これらのような、目には見えない、かけがえのないものと関わりを持つことが生命です。
近代化が進むにつれて、人間は目に見えるような生産性や効率性、即物的なものを追い求めてきました。
しかし、それでは高尚なる勇ましい生涯を送ることはできません。
「代表的日本人」にあるように、日本人は元来、生命を大切にする民族です。
内村は、現代を生きる人々に、本当の日本の精神を思いだしてもらいたかったのでしょう。
真面目に生きる
真面目に生きることが、高尚なる勇ましい生涯を生きるための方法です。
真面目に生きるとは、文句を言わずにひたすら勉強する、などといった話ではありません。
天の声を聞き、心の声に耳を傾け、自分が本当にやりたいことをする生き方です。
あなたの心の声に従う、真面目な生き方をしましょう。
あなたの中にある本当のものを呼び起こす、小さな勇気を持ちましょう。
心に浮かんでくるイメージは、あなたにそれが達成できるから現れるのです。
あなたの人生の決断を、効率的か、生産的か、周りの人から認められるか、などの基準で決めるのを辞めましょう。
本当のあなたがやりたいことは何か、天の声は何と言っているのか、人生をかけてあなたは何がしたいのか、これらを考えましょう。
日本人という民族には素晴らしい精神性が元来備わっています。
己の信念に従っていきることが、高尚なる勇ましい生涯になり、後世にまで受け継がれていくのです。
内村鑑三「代表的日本人」まとめ
内村鑑三は、生涯を通して日本人の可能性と天に従う生き方の重要性を唱えました。
何か立派なことをしなければいけないのではありません。
天の声に従う、つまり自分の内なる声に従う生き方こそが、高尚なる勇ましい生涯であり、後世への最大遺物なのです。
ぜひ参考にしてみてください😆
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