トルストイの「戦争と平和」をご存知でしょうか?
ナポレオン率いるフランス軍の侵攻を抑えるロシア軍、そしてその戦乱に巻き込まれるロシアの若者たちを描いた作品です。
戦争を通して人間が生きる理由を説くロシアの文豪トルストイは、人生の先生と揶揄されることもあります。
この記事では、そんなトルストイ「戦争と平和」について解説していきます。
トルストイとは
レフ・トルストイ(1828-1910)はロシアの思想家・小説家です。
フョードル・ドストエフスキー、イワン・ツルゲーネフと並び、19世紀のロシア文学を代表する文豪とされています。
彼の著書には「戦争と平和」「アンナ・カレーニナ」「復活」などがあります。
トルストイは名門貴族の四男として生まれます。
両親は早くに亡くなってしまいますが、家庭教師や召使などに囲まれ、非常に豊かさ生活をしていました。
また、幼いころから文学的な才能もあったようです。
しかし、学校に通うこともなく育ったトルストイの生き方は自然に即したものでした。
集団で何かに取り組むことも、人に指示されて行動することも苦手だったようです。
16歳でカザン大学に入学するも、大学の雰囲気が合わず成績不良で退学になってしまうのです。
彼の自由で型にとらわれない思想は「戦争と平和」にも表現されています。
トルストイ「戦争と平和」の解説
「戦争と平和」はロシアの文豪トルストイによって5年の歳月をかけて書かれました。
内容は、ナポレオン率いるフランス軍とロシア軍の戦いに巻き込まれていく若者たちの成長物語です。
登場人物が559人、本自体も非常に分厚く、密度の濃い作品となっています。
壮大なスケールで普遍的なテーマを扱ったこの本は、多くの人から評価を受けます。
英米作家が選ぶ愛読書第3位にノミネートされたこともあるようです。
トルストイの人生論
トルストイは「戦争と平和」を通して、彼なりの人生論を読者に伝えてくれます。
彼の考える人生論とは、どのようなものでしょうか?
トルストイは、人間の幸福を妨げるのは、個人的な幸福を求める存在同士の闘争である、と考えました。
個人的に幸福を得ようとしても、それは不可能なことを伝えようとしたのです。
人間はまず他人を愛する、次に他人から愛されるようになる、そしてこの無限の連鎖の中に自分の幸福も含まれているのです。
自分だけ得しよう、幸せになろう、と考えれば考えるほど、同じようなことを考える人との闘争が生まれてしまいます。
個人的な幸福の追求は不幸の始まりなのです。
アンドレイという軍人は、物語序盤から自分の名誉を追求していました。
フランスの軍人ナポレオンに憧れ、野心を持って誰よりも高みを目指していました。
しかし、彼は戦地で敵軍の罠にかかり、意識を失いかけます。
そして空を見上げた時に気付くのです。
果てしない空以外は、全てが空虚で欺瞞である、
空以外は何もない、それさえもない
静寂や安らぎ以外は何もない
空に比べれば、崇拝した人すらもちっぽけな存在である
彼は自分が求めていた名誉や名声が、どれだけちっぽけなものだったのかを知ることとなるのです。
どうすれば自分が幸せになれるかばかりを考えるのではなく、どうすれば他人を幸せにしてあげることができるのか、を考えるべきなのです。
トルストイは、個人的な幸福の追求には価値がないことを伝えたのです。
他者との交流による魂の向上
他者との交流には、魂を向上させる力があります。
素晴らしい心を持つ人との交流は、生きる喜びに繋がるのです。
ピエールという青年は妻の不倫による不仲が原因で、人生に疲れてしまいます。
秘密結社のフリーメイソンに助けを求めに行っても、そこにあったのは空虚な議論であり、生きる喜びは見つかりません。
彼は、トランプもおもちゃも馬も女も酒も政治も、全てが魂の向上にはつながらない、と考えます。
軍人であるアンドレイも負傷しながらもロシアに帰ってきますが、妻は難産で死去、自らが求めてきた名誉の意味も分からなくなり、鬱々した様子でした。
枯れた老木と自分を重ねるシーンもあります。
そんな二人の心の光を灯したのは、ナターシャという女性でした。
決して美人ではない彼女ですが、強い生命力と生活力を持っていました。
自然でありのままな彼女との交流を通して、ピエールとアンドレイは生きる目的を見つけ出していきます。
ナターシャという女性は、トルストイが理想とした女性でしょう。
自由で自然な生活をしている彼女の生命力溢れる心は、欺瞞と失望に満ちていた男性たちの心を溶かすのでした。
優れた精神性を持つ人間との交流を通して、人間は魂を向上させることができるのです。
心をひとつに
人間が人間たる所以は、困難が立ちはだかった時には心をひとつにできることにあります。
大きな危機が目の前にある時は、同じ状況を共有する人間たちが大きな愛でつながることができるのです。
軍人アンドレイはナターシャとの婚約を決めます。
しかし、アナトールという別の男性にナターシャを奪われそうになってしまいます。
ナターシャは自分の不甲斐なさに失望し自殺未遂、アンドレイとの婚約は破棄となってしまいます。
そしてあろうことか、アンドレイとアナトールは戦場で再会を果たすのでした。
お互い重症の状態で出会った中で、アンドレイは憎しみの対象であるはずのアナトールを許すことができました。
同じ敵と戦い、同じ重症を負っていることを悟ったアンドレイは、歓喜に満ちた哀れみを感じ、心の安らぎを得るのでした。
ナターシャもまた、家族と逃げる中で、負傷した兵士たちを見殺しにすることはできず、馬車で可能な限りの兵士を乗せることとなります。
自分たちの荷物は捨て、兵士たちを助けたのです。
危機が迫っているとき、強大な敵がいるとき、人間は心をひとつにすることで立ち向かうことができます。
人間が種として存続し、今まで多くの困難を乗り越えてこれたのは、この力があったからです。
自分中心ではなく、他の人のために何ができるのかを考えることが大切です。
本当の幸福とは
ピエールはフランス軍に捕まり捕虜となってしまいます。
監獄での生活や理不尽なことが積み重なった結果、彼はある境地に達します。
人間が幸福で完全に自由な状態であるという状態が存在しない以上、不幸で不自由な状態もあり得ないことを彼は知ったのです。
ロシアに戻ってくることができたピエールは、ナターシャと結婚します。
フランス軍との戦争から解放され、前妻との人間関係からも解放されたのでした。
彼はただ生きているだけで幸福を感じていました。
本当の幸福とは、常にあなたの前にあるのです。
本来人間は、生きているだけで幸せなのです。
しかし多くの人はこのことを忘れてしまいます。
より高いところを目指し、より多くの金銭や名誉を欲しがります。
しかし、そんなものを求めたところで現世が良くなることはありません。
トルストイは、日常生活の素朴な幸せにこそ、本当の幸福があることを伝えたかったのでしょう。
より高みを目指すことは大切です。
しかし、上を目指すということは今の生活には満足ができていない、ということと同義です。
本来は人間の幸福に条件はありません。
自由だから幸福、不自由だから不幸ではなく、いつだって幸福を選択できるのです。
トルストイ「戦争と平和」まとめ
トルストイは「戦争と平和」を通して、生きることの喜びや利他精神の大切さを教えてくれます。
以下記事のまとめです。
- トルストイとは、ロシアの思想家・小説家である
- 「戦争と平和」の要点
- まず他人を愛する、そして他人からも愛される、この無限の連鎖の中に自分の幸福もある
- 優れた精神を持つ人との交流は、魂の向上を引き起こす
- 大きな困難を前に、人間は心を一つにすることができる
- 本当の幸福とは、素朴な生活の中にある
ぜひ参考にしてみてください。
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