近年「M&A」というビジネス用語を耳にする機会が増えてきました。
聞いたことはあるけど、実際の内容は詳しく知らない、という方は多いでしょう。
M&Aはビジネスが加速する現代においては、経営戦略の1つとして非常に重要な役割を果たします。
この記事では、そんな「M&A」について解説していきます。
M&Aとは
M&Aとは、「Mergers and Acquisitions」(合併と買収)を略したもので、資本の移動が発生するような企業の合併と買収を指します。
- 合併とは、複数の企業を1つに統合すること
- 買収とは、一部もしくは全ての株式を買い取ることで、経営権を獲得すること
M&Aの成否は今後の企業の命運を分けるものでもあり、非常に重要な決断となります。
近年では特に企業のM&Aは増加傾向にあります。
というのも、不安定で加速する現代社会において、スピード感のある企業拡大は必須と言えるからです。
例えば、AI技術が足りない企業であれば、自社で技術者を雇ってゼロから開発するよりも、既にその技術を所持しているベンチャーを買収するほうが、時間効率的に有効なわけです。
また、日本においては特に、中小企業の後継者問題を解決する方法としても注目されています。
少子高齢化が進み後継者不足が深刻化する中、廃業を免れたい企業オーナーは、M&Aを選択するのです。
M&Aの戦略
M&Aにはいくつかの戦略パターンがあります。
企業経営上、どの問題を解決するかによって、買収資産と事業が変化するからです。
大きく分けると、以下のような戦略が挙げられます。
水平型統合
現在の事業の規模を拡大したい場合や、業界シェアを伸ばしたい場合は、水平型統合を選びます。
水平型統合では、自分たちの企業と同規模くらいの企業をM&A対象とします。
例えば、業界シェアのトップ5である、A, B, C, D, E社が存在したとすると、A社がC社を合併する形になります。
垂直型統合
現在の事業の業務オペレーションを改善したい場合や、機能追加によって事業の拡大を目指したい場合は、垂直統合を選びます。
垂直とは、事業の工程を垂直運動と捉えた際のいくつかの業務を合体させることを意味しています。
例えば、原材料の購買から商品の生産、顧客への販売や購入後サービスまで、様々な業務過程がある中で、商品生産の企業と顧客への販売を手がける企業が合併する場合などがあります。
新規事業統合
現在の事業が将来的に縮小することが予測される場合や、別の事業を展開することによるシナジー(相乗効果)が見込める場合は、新規事業統合を選びます。
完全に新しい事業を買収することは、一見するとリスクばかりが目立ちますが、既存の商品との良好な関係性を築ける場合は、非常に有効な手段となり得るのです。
例えば、全く違う業界の商品だけど、生産の際に必要な技術は同じ場合や、販売プロセスを流用できる場合などが挙げられます。
M&Aのメリット・デメリット
M&Aは大きなメリットがある一方で、それ相応のデメリットも存在します。
買い手側のメリットは、短期間で事業規模を拡大できることです。
今までの買い手企業の能力ではリーチできなかった層までアプローチできるようになるので、売り上げの大幅な増加を見込めます。
買い手側のデメリットは、期待していた効果を得られない可能性があることです。
勿論のこと事前調査や交渉は徹底的に行いますが、それでも予想しなかった事態が発生し、結局失ったものの方が多かった、などの事例も多く存在します。
売り手側のメリットは、資金の獲得です。
企業M&Aともなれば、それ相応の金額が動くこととなります。
また、後継者問題の解消や、経営者責任の解消などのメリットも存在しています。
売り手側のデメリットは、買い手側と同じく、期待していた結果を得られない可能性があることです。
特に懸念されるのが、M&Aが成立した後に買い手企業に移った自社社員が冷遇される場合や、リストラされてしまう場合です。
M&Aのプロセス
M&Aは規模と影響力が非常に大きいので、しっかりとしたプロセスを経て成立します。
ここでは、11のフェーズに分けて解説していきます。
買収戦略の策定
まずは、M&Aを実行することを決めます。
業績がいまいちだからとか、将来性が不安だからなどの、現実逃避的なM&Aは成功しません。
この時点で、なぜ自社がM&Aをするべきなのか、をしっかりと考えましょう。
M&Aを実行して、現在の事業とのシナジー(相乗効果)は生まれるのか、M&A以降の事業は健全に成長していくのか、検討する必要があるのです。
買収資産・事業の選定
M&Aの対象となる企業や資産、事業を特定する作業です。
この段階では、実際にM&Aが成立するかどうかを簡単に推測します。
この時点である程度の目途がつくのであれば、買い手側と売り手側がコンタクトを取ります。
交渉・秘密保持契約の締結
実際に交渉を進めていく作業に入ります。
このフェーズでは、第三者の専門家(両者共通の信頼できる知り合い、もしくはファイナンシャル・アドバイザーなど)を招いての交渉も多々あります。
また、この段階で秘密保持契約を関係者間で締結する必要があります。
秘密保持契約は、M&Aに関する情報や、企業の内部情報を外部に漏らさないことを決定する契約です。
事前簡易検討
ごく限られたメンバーで行われるのが、事前簡易検討です。
買い手企業メンバーだけではなく、売り手企業のスタッフとも議論を重ねます。
この際も、情報管理はしっかりと行うことが必須です。
選抜されたメンバー以外の人であれば、社員であったとしても情報提供は厳禁です。
情報流出は、M&A以降の経営戦略に大きな影響をもたらすからです。
基本合意の締結
事前簡易検討が済み、交渉が成立したら、本格的に手続きを進めるための基本合意書(LOIもしくはMOU)を締結します。
この段階で、売買価格や統合の形態、その他の諸条件を全て決定します。
ちなみに基本合意書とは、本格的な交渉作業に入る前に買い手企業と売り手企業の間で結ばれる合意を指します。
主な内容は、秘密保持の義務や具体的な交渉内容、独占的交渉権などについてが記載されます。
デューデリジェンスの実行
続いて行われるのは、DD(デューデリジェンス)です。
自社のメンバーもしくは外部からの専門家を招集して、売り手企業の詳細の調査を行います。
本当にM&Aの対象企業としてふさわしいかを判断する材料となるDDの調査結果は、M&Aの成否に大きくかかわる重要なものです。
調査対象は多岐にわたり、事業や税務、法務からITまで様々です。
最終条件の交渉
DD(デューデリジェンス)などの調査を踏まえて、基本合意内容に変更がないかどうかを確認するフェーズです。
見直しが必要な点がないかどうか、売り手側が提供した情報には記載がない不良債権など存在しないかどうか、しっかりと調整することが大切です。
どうしても成立させたいM&Aであれば、この最終調整を飛ばしてしまいがちですが、しっかりと対応することが大切です。
最終売買契約の締結
過去に実施したDD(デューデリジェンス)と最終条件交渉の結果を踏まえて、売買契約書が作成されます。
この売買契約書は完全オーダーメイドであり、内容は以下のようになっています。
資産・事業の譲渡作業
実際に資産・事業の譲渡作業を行います。
譲渡内容は全ての財産なので、物や金は勿論のこと、人や情報、ブランドなども譲渡されます。
このプロセスは見てわかる通り、かなり骨が折れる作業なので、かなり早い段階から目星をつけておくことが大切です。
なお売り手企業は一般的にこの段階で、競業避止義務を負います。
統合計画の策定
M&Aが成立した後の経営戦略を策定するフェーズです。
M&Aが成立したところで、買い手企業の事業価値が上昇しなければ意味がありません。
成立することと、成功することは全く別物なのです。
元から存在していた資源と、新たに加わった資産・事業の関係性をしっかりと調整する必要があります。
統合計画の実行
売り手からの譲渡が完了し次第、統合計画を実行します。
スピード感を持って統合できるかどうかが、M&Aの成否を大きく左右します。
特に、人的融合(売り手企業からやってきた社員たちと買い手企業の元からいた社員たちの合併)は気を使う必要があります。
その他の部分も、PDCAサイクルを回して改善を積み重ねて行く必要があります。
M&Aのまとめ
M&Aの基本的な概要を理解していただけたでしょうか。
M&Aは大幅な事業拡大と売り上げ増加を見込めるハイリターンの戦略ですが、一方で予想通りの結果が得られず大きなコストだけがかかるハイリスクの危険性も秘めています。
市場が不安定であり、テクノロジーが加速する現代において、M&Aは注目すべき経営戦略の1つです。
ぜひ参考にしてみてください。
- M&Aとは、「Mergers and Acquisitions」(合併と買収)を略したもので、資本の移動が発生するような企業の合併と買収を指しす
- M&Aには、水平型統合・垂直型統合・新規事業統合の3つの戦略がある
- M&Aは大幅な事業拡大を見込めるが、予想通りの効果をもたらすかどうかは分からない
- M&Aはインパクトが大きいため、しっかりとしたプロセスを踏むことが大切である。
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