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ハイエク「個人主義と経済秩序」を分かりやすく解説

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現代は、Wikipediaなどの知識共有プラットフォームクラウドファンディングなどの、誰もが簡単に関われる非中央集権的なシステムが大きな役割を果たしています。

このような集合知の力の可能性を先に示し、現在活躍する多くのシステムの礎を作った人物が、フリードリヒ・ハイエクです。

彼は、社会主義的な中央集権が正しいとされる風潮が強かった1940年代から、分散型の経済の可能性を説いていました。

この記事では、そんな彼の著書である「個人主義と経済秩序」について解説していきます。

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ハイエクとは

Wikipedia参照

フリードリヒ・ハイエク(1899-1992)とはウィーン生まれの経済学者・哲学者です。

彼の研究範囲は多岐にわたり、経済学から法学、政治学から心理学まで様々です。

主な彼の著書には、「貨幣経済と景気循環」「資本の純粋理論」「隷属への道」などがあります。

ハイエクは1889年にウィーンで生まれます。

第一次世界大戦にてイタリア戦線に従軍したのち、ウィーン大学で多くの学問を学びます。

卒業後はルートヴィヒ・ミーゼスのもとでオーストリアの政府機関に務めます。

1927年にはミーゼスと共に研究所を設立、これは後のオーストリア経済研究所となります。

1947年にはミルトン・フリードマンらとともに、自由市場を推進する目的で、モンペルラン・ソサイエティーを創設します。

以降、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスやシカゴ大学、フライブルク大学にて教授に就任します。

担当内容は経済学や政治思想に限らず、思想史全般まで扱っていたそうです。

ハイエクは1974年にノーベル経済学賞を、1984年にはエリザベス女王からコンパニオンズ・オブ・オナー勲章を、1991年にはジョージ・ブッシュ大統領から大統領自由勲章を受賞しています。

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ハイエク「個人主義と経済秩序」の解説

「個人主義と経済秩序」(1945)はハイエクによって書かれた経済学書です。

ハイエクはこの書籍を通して、当時主流であった中央集権的な計画経済下では、いつか行き詰まりを迎えることを指摘し、多くの衝撃を生みました。

この記事では、くわしく彼の主張を見ていきます。

前提:情報の重要性

ハイエクの経済に関する主張を理解するためには、まず前提を理解しておく必要があります。

それは、経済が繁栄し、資源が上手く分配されるかどうかは、情報を入手できるかどうかにかかっている、ということです。

どんな経済制度であっても、正しい情報を十分に集めることができなければ、効率的に最善の策を打つことはできません。

万能な経済システムには、大量の情報が必要なのです。

この世界に存在しうる全ての情報パターンを整理することができれば、社会は最適解を導き出して最も効率的に繁栄していくことができます。

しかし、それは不可能でしょう。

この世界には無限通りの情報パターンが無秩序に分散しているからです。

経済政策などの、経済行動に必要な情報を全て入手できる人間はこの世にはいないのです。

1940年代の時代背景

ハイエクが本書を書いた時代は、社会主義的な思想が主流でした。

なぜなら、中央集権的なシステムであれば、一度全ての情報が中央に集まるので、最適解を導き出すことができると思われていたからです。

資本主義は思いつきの行き当たりばったりシステム、社会主義は効率的で合理的なシステムと思われていました。

しかし、先ほどの前提を踏まえてもらえば分かる通り、いくら中央政府であったとしても、集められる情報量には限りがあります。

最適解を導き出せるのは、あくまで決断に必要な情報が全て集まったときの話であり、中途半端に集められた断片的な情報だけでは、間違った答えを出してしまう可能性だってあります。

事実、社会主義的な中央計画当局の統治や五か年計画などは、失敗に終わることが多かったのです。

例えばソ連では、市場社会主義というシステムを採用していました。

国有企業の市場内における利潤追求を認めるとともに、政府が商品の市場価格を設定する、という制度です。

これは失敗に終わりました。

市場における全ての情報を把握していない政府が商品価格を勝手に決定したために、需要と供給のバランスが崩壊し、商品不足もしくは過剰生産を引き起こしてしまったからです。

効率的な情報の利用

ハイエクの主張はいたってシンプルです。

市場における自由な価格決定と利潤追求を認める制度を持つ社会だけが繁栄する。

自由市場によって導き出された価格は、無駄のない資源配分の実現のためには欠かせない指標である。

自由な市場経済において人々が、価格という指標を参考に、自らにとって最適な経済行動をとることを目指したのです。

なぜなら、この方法が一番、知識や情報を利活用できるからです。

個人による意思決定が支える自由市場の良いところはいくつもあります。

まず、刻一刻と変化する市場の状況に対応することができます

現場の人間は誰よりもその時点で情報を保持しています。

その人たちが、現時点で最適だと思う行動をとることが最も効率的であり、それを無限に繰り返していくことで、柔軟な対応していくことができます。

社会主義的な長期経済計画(五か年計画など)の問題点は、時間が経つにつれて生まれる変化に対応できない部分なのです。

また、現場の人間が市場の全ての情報を知る必要はありません

自分の目的達成に必要な情報だけを集め、それに沿った答えを出していけばいいのです。

生産業を営んでいるのであれば、原材料の取得方法や値段設定、商品の需要や市場環境などについて知る必要はあるでしょう。

しかし、全ての情報は知らなくても、社会の資源配分は価格機構(価格の自動調節機能)によって勝手に調整されるのです

市場のメカニズム

市場に関わる人が、正しい経済行動をとるために必ず知らなければいけないものは、価格です。

価格とは、市場の情報を明確に反映するシンボル的存在なのです。

この価格を基準に経済活動をすることで、あとは市場のメカニズムによって資源が最適に配分されていくだろうというのが、ハイエクの主張です。

中央当局は価格の自由を認めず、ある一定の額に設定したり、動きの硬直化をもたらしたりします。

すると、市場に関わる多くの人は、資源配分がしっかりと行われているのかの情報を得ることができなくなります。

市場に関する正しい情報をえることができず、市場における最適な行動を取れなくなってしまうのです。

つまり、市場のメカニズムが働かなくなってしまうのです。

これが中央集権型の国家が廃れていく原因ともなり得ます。

真の進歩とは

多くの人が市場のメカニズム(価格機構)を信頼することができません。

これは当然かもしれません、なぜならこの仕組みは人間によって作られたものではないからです

神の見えざる手、という考え方はあまりにも非現実的であり、信頼するに値しない、と考えるのも自然です。

ハイエクは、「個人に対して何をするべきか命令することなしに、個人に望ましいことをさせる」という能力に関しては、価格に敵うものは存在しないと主張します。

人為的に生み出された中央当局も計画経済の、価格には敵わないのです。

人類の真の進歩とは何でしょうか?

多くの哲学者は、真の進歩とは、変化の原因を知らなくても、指標に従うだけで正しい方向に進むことができ、繁栄につながるような社会を構築すること、だと考えます。

事実、価格機構は現代社会の経済を根本から支えており、現代を生きる人々の自由を担保しながらも安定した資源配分を効果的に行っているようにも見えます。

人間が作ったものではないから、という短絡的な感情だけで物事を判断するのではなく、過去の歴史や事実からも物事を捉えることが大切です。

経済外への適用

ハイエクの考える非中央集権的な構造は、経済以外の分野にも適用することができます。

知識とはその性質上、一か所に集中させるよりも、相互に関係しあいながらも自律的に分散させる方が、全体の総和の伸びが加速します。

この自立分散型の構造は、現代でも多くの分野にて活用されています。

インターネットの登場によって、中央集権的な枠組みが破壊されたからです。

ハイエクの知識・情報の共有に関する論文を読んだアメリカの学生はWikipediaを作成しました。

2001年に世界で初めて行われたクラウドファンディングと呼ばれる、一般人から資金を調達するシステムも、ハイエクの理論を根拠にしています。

集合知を活用するシステムはこれから増えていくでしょう。

”非中央集権的”かつ”自律分散的”な構造が、社会に新たな繁栄をもたらすのです。

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ハイエク「個人主義と経済秩序」まとめ

この記事では、ハイエク「個人主義と経済秩序」について解説しました。

個人個人が持っている情報をもとに最適な行動を選ぶことで、市場のメカニズムが働き、最適な価格が決定され、経済は繁栄します。

そしてこれは、非中央集権的なシステムである自由市場経済だからこそ成り立つのです。

また、ハイエクの知識共有の考え方は経済以外にも反映されています。

多くの分野で、新たな知識の構造が構築され、社会は更なる発展を遂げているのです。

ぜひ参考にしてみてください😆

以下、記事のまとめです。

  • ハイエクはオーストリアの経済学者である。
  • 情報量が多ければ多いほど、正しい判断ができる。ただし全ての情報を入手できる人はいない
  • ハイエクの主張は、個人個人が持っている情報をもとに最適な行動を選ぶことで、市場のメカニズムが働き、最適な価格が決定され、経済は繁栄する、というもの
  • 効率的な知識の利用をすることが、経済発展のポイントである
  • ハイエクの理論は、Wikipediaやクラウドファンディングなど経済外にも影響を与えている

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