18世紀にイギリスにて発生した産業革命は、人類に大きな影響を与えました。
資本主義は更なる成長をとげ、物質主義的な思想が広まっていきました。
そんな時代背景において、カール・マルクスは資本主義の危険性に対して警鐘を鳴らし、新たな体制へ向けて革命をもくろみます。
この記事では、そんなマルクスの中心的な思想を示す著書「資本論」について解説していきます。
カール・マルクスとは
カール・マルクス(1818-1883)とは、ドイツ出身の哲学者・経済学者・革命家です。
社会主義の推進派しており、生涯をかけて資本主義社会における革命をもくろんでいました。
主な著書には「資本論」「共産党宣言」などがあります。
1818年にマルクスは、プロイセン王国ラインラント地方の裕福なユダヤ人家庭に生まれます。
幼少期からラテン語、ギリシャ語、フランス語、ドイツ語の基礎教育を受け、ボン大学とベルリン大学にて学び、イェーナ大学にて博士号を取得します。
しかし、あまりにも急進的な思想を持っていたマルクスは大学で教職に就くことができず、新聞記事のライターとなります。
彼の就職先である「ライン新聞」も急進的な思想を持っていたため、政府によって廃刊処分となります。
マルクスは居場所を失い、当時社会主義思想の中心地であったパリに移り住みます。
彼はそこでフリードリヒ・エンゲルスなどの友人と出会います。
プロイセン王国からの圧力によりパリからも追い出されてしまうマルクスですが、革命の必要性を訴え続け、1848年には「共産党宣言」を、1867年には「資本論」を執筆します
彼は1883年にロンドンで死去し、同志であるエンゲルスによって「資本論」の第二巻・第三巻はまとめられ、1887年に英語版の「資本論」が出版されます。
カール・マルクス「資本論」の解説
「資本論」(1867)はカール・マルクスによって書かれた経済学書です。
この本は「共産党宣言」に比べるとあまり目立つものではありませんが、マルクス思想の根幹を示す貴重な本です。
ちなみに、彼は「資本論」を彼の別著「経済学批判」の続編という位置づけで執筆しています。
マルクスの目的
マルクスが本書の執筆出版を通して成し遂げたいことは、資本主義が本質的に所有している危険性を明らかにし、新たな体制の可能性を説くことです。
彼は本書の中で、資本主義のシステムの中で進む工業化が、人々にどのような悪影響を与えたかを詳しく説明します。
例えば、工業化初期時代のイギリス労働者階級の子供たちのれたくな労働環境などを批判しています。
魔法のような新技術は余暇と生活の快適さを増やすどころか、資本と結びついてイギリスの労働者と農民を「白人奴隷」に変えた
カール・マルクス「資本論」
彼は、産業革命によるイギリス的共同体社会はいつか崩壊すると考えていました。
そして、その流れはヨーロッパへと拡がり、いずれは世界規模にまで達すると考えていたのです。
だからこそ、マルクスは自由放任主義の経済理論を否定するような証拠を提示することで、資本主義の転覆をめざしたのです。
労働価値説
マルクスの経済理論は、労働価値説に基づいて構成されています。
労働価値説とは、物の価値はその生産のために投下された労働の量によって決定される、とする思想
つまり、我々が普段手にするような商品は全て、人間の労働が集まったもの、人間労働の凝結物なのです。
また、マルクスは物の価値を「使用価値」と「交換価値」に分けて考えました。
使用価値とは、その生産物の有用性(使って役立つこと)を指す
交換価値とは、その生産物を実際に交換・購入・販売するときの価値を指す
商品の持つ本質的な価値と、それを実際に購入する際に必要な価値は違う、ということです。
人間も商品である
全ての商品は労働で言い表すことができます。
そして、現代社会ではこの労働を金銭と置き換えて表現しています。
つまり、労働を生み出す主体である人間の価値もまた、金銭によって定義することができるのです。
その人が自分の労働をいくらの金銭と交換するのかで、その人がどれくらいの価値の商品であるかが分かります。
資本主義社会においては、労働が生産の要素であるなら、あらゆるものは商品化されます。
そして人間もまた売り買いの対象となるのです。
マルクスはこれを、「経済的関係の基礎に奴隷制がある社会」と表現しました。
自立した農民の共同体であった過去の人類の関係性は、資本主義の発展によって新たな関係性を構築したのです。
資本家による搾取
労働者は基本的に自分の労働力しか売ることができません。
自分の労働力が生み出した商品を売ることはできないのです。
彼らが作り出した商品は、資本家によって販売され、彼らの利益になっていくのです。
この労働者と資本家の関係性は自然に生まれたわけではありません。
資本主義というシステムを構築していく過程で新たに発生した関係性なのです。
そこでは労働力の価値は、労働者が自分を維持し、彼らの家族を養うのに十分なだけの金銭の総和と等しくなる、とマルクスは考えます。
つまり、労働者は自らの生活を営む最低限の金銭しかもらえないのです。
では、商品を売ることで得られた余剰価値はどこに消えるかというと、資本家の利益となっていくのです。
労働時間
労働者と資本家の関係性は労働時間にも現れます。
一日のうち数時間は労働者にとっても資本家にとっても必要な時間です。
この時間は生活費を稼ぐための時間として意味を持ちます。
そして必要な労働時間を過ぎた後に現れるのが、余剰労働の時間です。
この時間に生み出された価値は全て、資本家の純利益となります。
つまり、労働者は一定時間を自分の生活費のために費やしたら、後は資本家の利益のために働かなければいけないのです。
資本家の利益とは、労働者の余剰労働から発生します。
マルクスは奴隷制度と資本主義内の労働社会の違いは、搾取の度合でしかない、と表現しています。
資本は死せる労働であり、それは吸血鬼のように生きた労働の血をすいとることによって生きる。吸い取る量が多ければ多いほどそれだけ多く生き延びる
カール・マルクス「資本論」
イギリス工場法
資本家の搾取の姿勢を表す事例としてイギリス工場法が挙げられます。
イギリス工場法とは、産業革命期の劣悪な労働環境下で働く労働者を保護する律法です。
年齢制限による労働者の安全確保や、若年層労働者の労働時間の制限などが行われました。
人権を重視した素晴らしい法律であると言えるでしょう。
しかし、当時の産業界の資本家層からは反対意見が多く寄せられました。
理由は単純で、自分たちの労働力が減少するのを嫌がったからでしょう。
マルクスはこの事例こそ、資本の精神の特徴をよく表わしている、と言います。
マルクス思想に欠けているもの
ただ、マルクス思想も万能ではありません。
彼の主張には偏っている部分や、そもそも欠けている部分があります。
列挙すると、以下のようになります。
- 資本主義が持つ、人間の競争心を刺激する力を無視
- 技術や生産性の向上による商品価値の低下の可能性を無視
- 労働者が資本家になる可能性(株や不動産)を無視
- 労働者が生み出した商品を自ら販売する可能性を無視
例えば、一番下の労働者が生み出した商品を自ら販売することは、現代においては非常に容易となっています。
インターネット上でショップを開き、自分の商品を販売すればよいのです。
そもそも、現代でも資本主義は崩壊することなく機能しています。
最適解であるかどうかはさておき、社会主義国が崩壊していく中で資本主義は経済発展を伴い、豊かな社会を構築してきました。
これは労働者が順当に金銭的報酬を受け取っていることの証明になるのではないでしょうか?
カール・マルクス「資本論」まとめ
この記事ではカール・マルクスの「資本論」について解説しました。
彼は資本主義が内包する危険性についてを詳細に記述しました。
資本家と労働者の関係性に関しては、ある程度のバイアスはかかっているものの的確に言い当てている部分もあります。
この本を機会に、一度自分の社会的立ち位置を見直してみることも良いかもしれません。
この記事のまとめです。
- カール・マルクスとはドイツ出身の哲学者・経済学者・革命家
- マルクスの目的は、自由放任主義の経済理論を否定する証拠を提示すること
- 労働価値説とは、全ての商品の価値は費やされた労働量によって定義される説
- 資本家による労働者からの搾取と奴隷制度は紙一重
- イギリス工場法は資本家の魂胆を伺える事例
- ただし、マルクスの主張には欠けているポイントもある、特に現在まで資本主義が生き残り、社会的経済的に繁栄していることがマルクス思想への反論となる
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