人間はなぜ他の動物と違って大きく発展することができたのでしょうか?
人間と動物には、どのような違いがあるのでしょうか。
「全体主義の起源」や「エルサレムのアイヒマン: 悪の陳腐さについての報告」で知られるハンナ・アーレントは「人間の条件」という著書にて、人間が人間であるための条件を考察しています。
この記事では、そんなアーレントの「人間の条件」について解説していきます😆
ハンナ・アーレントとは
ハンナ・アーレント(1906-1975)はドイツ出身の哲学者・思想家です。
主に政治哲学の分野にて活躍し、ナチスドイツをはじめとする全体主義の研究で知られています。
彼女の著書には「全体主義の起源」「人間の条件」「革命について」などがあります。
アーレントは1960年にドイツのユダヤ人家庭に生まれます。
7歳のときに父親を失いますが、熱狂的なドイツ社会民主党員だった母親とは深い絆で結ばれていたようです。
高校を卒業したのちに、マールブルク大学で神学を学び、ハイデルベルク大学にて哲学博士号を取得します。
マルティン・ハイデガーの指導を受けていた際は、恋愛関係にあったことで知られています。
ナチスの勢力が強まっていく時代背景に影響されたアーレントは、パリへと亡命しユダヤ人の子供を救済する活動を行います。
しかし、1940年には南フランスのドイツ人キャンプに拘留され、なんとか逃れてアメリカに渡ります。
1951年にはアメリカ国籍を取得し、プリンストン大学初の政治学教授に就任します。
また、シカゴ大学やウェズリアン大学などでも教鞭をとりました。
アーレント「人間の条件」の解説
「人間の条件」(1958)はハンナ・アーレントによって書かれた哲学書です。
非常に独創的なアーレントの哲学の全体感が分かる作品となっています。
政治哲学の研究対象にされることも多い本作ですが、人間の可能性を信じているという点では、啓発的な部分もあります。
以降、詳しく解説していきます。
人間の活動力
タイトルにもある”人間の条件”とはいったい何でしょうか?
アーレントは人間を他の動物と区別している原因として、活動力を挙げています。
活動力とは、「労働」「仕事」「活動」の3つの要素からなるもので、人間だけが持つ唯一のものです。
つまり、人間の条件とは「労働」「仕事」「活動」の3つなのです。
労働(Labor)
労働とは人間の生物学的過程に関わる活動力であり、生命を維持するための行為です。
労働とは、生命を維持するための行為であり、生物学的過程に関連する活動力を指す
つまりは、多くの人がイメージするような一般的な労働と変わりなく。肉体的・知的に働いて金銭を獲得、それで必要最低限の生活保障を得る、というものです。
アーレントは、労働の人間的条件は生命それ自体である、と表現しています。
彼女は基本的に労働に関しては悲観的な見方をしています。
労働とは必要性による奴隷化である、と考えており、人間から自由を奪う存在だと認識しているからです。
人間は生きていくために労働しなければならず、これは人間に苦痛や苦悩をもたらすのです。
さらに、機械やテクノロジーの発展により労働が楽になると、人間はなおさら労働から抜け出せなくなると言います。
結果的に人々は労働から自由になる動機を失い、労働に苦しみ続けるのです。
仕事(Work)
仕事とは、何かしらの作品を作り出す制作行為を指し、主に芸術作品や工作物を作る行為を示しています。
仕事とは、人間が自らの創造性を元に何かしらの作品を生み出す行為を指す
仕事とは非自然的な行為であり、これを通して人間は世界に永遠に残り続けるものを生み出せるようになります。
アーレントは、生命の空しさと人間的時間の儚さに一定の永続性と耐久性を与える、と表言しています。
アーレントは、仕事自体は素晴らしいものであると言います。
人間の思考能力を具現化することで、新たな事物を作り出す、変身させることは熟練された技能を持ち合わせなければできないことです。
しかし、そんな仕事ですらも機械のオートメーション化によって駆逐される可能性があると考えます。
近代社会の性質上、仕事によって生み出された素晴らしい作品すらも、均一的な価値基準によって評価され、その価値を維持できないと予想したのです。
活動(Action)
活動とは、多種多様な人々と交流し、言論や行動を通して固有性や独自性を認め合う行為を意味します。
活動とは、様々な人との交流を通して、固有性や独自性を認め合う行為を指す
ようは人間交流ということです。
活動には非常に多くのポイントがあります。まとめると以下のようになります。
- 物質を必要としない唯一の活動力
- 人間の本質
- 自然の世界を超越
- 複数性・多数性が大切
- その人が誰であるかを規定する
今までの労働や仕事は1人でもこなすことができましたが、活動は必ず複数人で行う必要があります。
そして活動をすることで、人間はお互いの違いを知り、自分という人間がどんな人間なのか、を知ることができるのです。
アーレントは、活動こそが最も重要な活動力であり、人間の条件であるとしています。
活動が失われる世界
アーレントは人間の3つの活動力を前提として、近代社会(労働社会)への批判を行います。
具体的には、労働の重要性が高まりすぎて、仕事や活動の領域にまで侵入、駆逐しようとしている、と主張します。
人間の本質である活動を失ってしまうと、人間は多くの問題を抱えることになります。
労働社会化した世界では人間は個別性を失い、真の意味で思考すること、問題に立ち向かうこと、を放棄してしまうからです。
アーレントはこれを、意識と自己決定力のある真の人間ではなく、環境の受動的な反映であり、単なる進化した動物に成り下がる、と表現します。
アーレントは公的領域と社会的領域という概念でも、同じことを考えます。
公的領域とは、活動の領域であり、全ての人が独自性を持つ多様性を受け入れる空間を指す
社会的領域とは、必要性(労働)を優先し、全ての人に同質化を求める画一主義を持つ空間を指す
近代になるにつれて、世界は公的領域から社会的領域に移り変わっている、と言うのです。
具体例を挙げると、公的領域は古代ギリシアのポリスが、社会的領域は戦時中のドイツが当てはまるでしょう。
活動が栄光をもたらす
人間の持つ永遠の課題として、自分自身について知ることができない、というものがあります。
「自分とは何か?」と聞かれると、物質的に構成された身体である、と答えられます。
しかし、「自分とは何者か?」と聞かれると、分からない人が多いでしょう。
アーレントは言葉と行動を伴う”活動”こそが、この問題を解決するとしています。
その人が何者かは、その人と一緒に過ごすことで分かるものです。
共に”活動”をすることで、人々は支えあうだけでなく、お互いの本性を明らかにすることができます。
そして1人の人間が何者であるかが分かったとき、それを最高の暴露、または栄光、と呼ぶのです。
他者との関係性を築き、自分が何者かを知るために必要な”活動”は、愛によってその効力を高めます。
そして活動する能力が、人生に新たな始まりを与え、希望と信頼を生み出します。
人間は活動を通じて、自分を再発見するとともに、変化していくことができます。
アーレントは、愛によってのみ人間は公的生活に真の影響を与えることができる、と言います。
生命の誕生
人間は自然の中で続く無慈悲な生と死のサイクルに投げ入れられただけの存在であり、それは破滅をもたらすだけです。
しかし、我々は活動を通してこのサイクルから抜け出すことができるのです。
アウグスティヌスに感化されたアーレントは、彼の出生の概念を参考に、人間が生まれたのは、死ぬためではなく始めるためである、という結論を出します。
人間の真の栄光が、活動を通して各自のアイデンティティを確証することであるとするならば、生命の誕生とは奇蹟です。
人間は普通の動物と違い、利己的な生存本能を超越して、新しいものを生み出すために行動することができます。
人間はこの能力、つまり真に自由な決断ができる能力のゆえに、行動の予測が不能となっています。
アーレントの言葉を借りると、人間の生は「正規に起こる無限の非蓋然性」であるのです。
つまり、1人の人間の誕生が新たな可能性の始まりであり、これまでに存在しなかった何かが新しく生まれる機会であるのです。
アーレントは、全ての人間が持つ活動と意外性の力を信じていました。
全ての人間は、だれ一人残らず、世界を変革する可能性を持って誕生するのです。
最後に「人間の条件」の引用を載せます。
新しいことは、常に奇蹟の様相を帯びる。そこで、人間が”活動”する能力をもつという事実は、本来は予想できないことも、人間には期待できるということ、つまり、人間は、ほとんど不可能な事柄をなしうるということを意味する。それができるのは、やはり、人間は一人一人が唯一の存在であり、したがって、人間が一人一人誕生するごとに、なにか新しいユニークなものが世界にもちこまれるためである。
ハンナ・アーレント「人間の条件」
アーレント「人間の条件」まとめ
ハンナ・アーレントは「人間の条件」を通して、人間一人一人がもつ可能性を示すとともに、画一主義的な近代社会化の危険性を主張しました。
特に彼女の、全ての人間は世界を変革する可能性を持つ、という意見には、心を動かされます。
ぜひ参考にしてみてください😆
以下、記事のまとめです。
- アーレントはドイツ出身の哲学者・思想家である
- 人間の条件は「労働」「仕事」「活動」の3つからなる
- 人間は活動を通して自分が何者であるかを知ることができる
- 全ての人間は世界を変革する可能性を持て誕生する
また、アーレントの記事に関してはこちらもございますので、興味がある方はどうぞ。
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