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ベルクソン「創造的進化」をわかりやすく解説:生命の躍動(エラン・ヴィタール)とは

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ベルクソンは哲学者ながらも、ノーベル文学賞を受賞した特異な人物として知られています。

彼は哲学者の中では珍しく、人間の可能性を大いに肯定し、自分たちが存在することへの喜びを訴える思想を持っていました。

彼の著書には、多くの哲学者が記すようなつまらない文章ではなく、もっと人を引き付けるような魅力があったのです。

ベルクソンの哲学は、ハイデガーや西田幾多郎など、後の哲学者たちに大きな影響を与えました。

この記事では、そんなベルクソンの著書「創造的進化」について解説していきます。

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ベルクソンとは

Wikipedia参照

アンリ=ルイ・ベルクソン(1859-1941)はフランスの哲学者です。

機械論的な主張を尊重しながらも、人間の生命の力を重要視した、主流とは外れる思想で知られています。

彼の主な著書には、「時間と自由」「物質と記憶」「創造的進化」などがあります。

ベルクソンは1859年のパリで生まれます。

ユダヤ人の両親のもとで生まれた彼は、幼いころから優秀な学生でした。

数学と人文科学のどちらにも才能があった彼ですが、結局哲学の道を進むことを決意します。

彼はフランスの国立高等師範学校に入学、その後哲学高等教員採用試験に次席で合格しています。

学校を卒業してからは、高等学校や国立教育機関などで教授に任命され、教鞭をとります。

彼は世界的に有名な哲学界のスター的存在であり、非常に多くの人気を博しました。

また、国際連盟の立案と創設に深く関与し、ユネスコの設立にも協力しています。

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ベルクソン「創造的進化」の解説

「創造的進化」(1907)はベルクソンによって書かれた哲学書です。

生命の躍動という概念を提唱し、既存の生物学に新たな選択肢を提供したことで知られています。

また、この書籍は非常にファンが多く、今でも愛される書籍です。

以降、詳しく解説していきます。

生命の躍動(エラン・ヴィタール)

ベルクソンの主張の中核を担うのは、「生命の躍動」というキーワードです。

当時の時代背景を考えると、科学的論理や唯物論的主張(科学的に証明されたものが正しいとする論理や、全ての現象の根底には物質が存在すると考える主張)が思想の大多数を占めていました。

そんな中で彼は、科学的な思想を重視しながらも、もっと神秘的な概念を生み出します。

それが「生命の躍動」なのです。

ベルクソンは、科学論理の中心に位置するダーウィニズム的進化論の欠陥を指摘し、そこから自分の理論を展開します。

ダーウィニズム的進化論がとても優れた機械論的仮説であること(生命を機械のように合理的な観点から扱うこと)を認めつつも、それだけでは人間の全てを説明することはできない、と考えたのです。

進化論では生命体の表面的な部分、例えば形状の変化や習慣の変容などを重視します。

しかし、ベルクソンは生命体の活動を推進する、生命の力についてを詳しく考えました。

「生命の躍動」とは、生命体の持つエネルギーの流れを生み出す、絶え間のない創造を指します。

生命の躍動(エラン・ヴィタール(elan vital))とは、生の飛躍を意味し、生物が内的衝動によって進化していく、その生命の躍進力を指す

人間を理解するには、その表面的な変化などを含めた表現や物質的な変化だけではなく、生命体を動かすエネルギーの流れを理解する必要があります。

そして、その流れを生み出すものこそが「生命の躍動」である、とベルクソンは考えたのです。

生命体の「持続性」

科学が発展し、機械論的な理解が広まると、全ての存在を物理や化学の法則で計算できる!という思想が蔓延ります。

確かに、全ての無機物はそれらの法則によって予測すること、計算することが可能でしょう。

しかし、生命体を理解しようとする場合には、そうはいかないと、ベルクソンは主張します。

なぜなら、生命体は静的ではなく、常に変化し続ける特性である「持続性」を保持しているからです。

無機物と違って生命体には、空間という軸だけではなく時間軸という概念が存在します。

物質的な性質だけではなく、時間的な性質も保有しているのです。

だからこそ、生命体を物質的な性質だけから判断しようとするのは短絡的であり、時間軸を考慮した理解をする必要があるのです。

進化とは何か

ベルクソンは、人間は空間の中だけではなく、時間の中にも存在することを主張します。

現代人にも言えることですが、我々は様々なことを機械的に物質的に理解しようとします。

人間の知性は、物質的に思考することに優れているからでしょう。

しかし、それでは時間的な概念を置き去りにしてしまっているのです。

人間は自らの知性を頼りにカテゴリーを作成し、そこに生命体を当てはめていきますが、いつかこの概念は崩壊すると、彼は言います。

生物学は機械論的な見解に執着しています。

それでは、得られる成果もまた人工的で記号的な、表面的なものばかりになってしまうのです。

ベルクソンは、本当に理解するべきは、表面的な部分ではなく、より本性の力に近い、創造的衝動であると言います。

人間は創造的衝動に駆られて進化していきます。

つまり、進化とは持続的な創造の推進である、と彼は考えたのです。

ダーウィニズムとの差異

機械論的な仮説を提唱するダーウィンの進化論では、生命体の進化とは単なる現象にすぎません。

全ての生命体が一定の法則によって縛られて、想定通りの進化を遂げていくと考えられています。

過去に様々な原因が存在しており、それが結果として未来に反映される、という考え方です。

ベルクソンの提唱する「創造的進化」は、より人間の内なる力、つまりは「生命の躍動」を重視します。

過去は現在を支える存在ではありますが、未来を決定する要因にはなり得ません。

生命体の未来を決定するのは、過去ではなく「生命の躍動」だからです。

「生命の躍動」とは生命体を突き動かすエネルギーの流れであり、持続的で絶え間のない創造でもあります。

生命体の進化とは、内的衝動(創造的衝動)に突き動かされ、機械論的な法則をすり抜けて発生する、絶対的に新しいものの連続的生成なのです。

全体を掴むことの重要性

ベルクソンの思想においてユニークなポイントは、事物をより全体の視点から捉えている部分です。

一般的な科学では、事物の存在を特定の範囲内で理解し、そこに一定の法則を発見します。

小さな範囲について詳しく調べ、それが知識となり伝染していくのです。

しかし、全体像を把握しないまま、細部の法則だけを理解しても、それは事物を正しく理解したとは言えないでしょう。

ペンで書かれた曲線を近くで見ると、無数のインクの点で構成されていることが分かります。

しかし遠くから見ると、それは曲線であることが分かります。

つまり、事物を観察するその視点の位置によって、それらは性質を変えるのです。

これを生命体に当てはめてみても同じことが言えます。

人間1人1人を観察しても、真の意味で人間を理解したことにはなりません。

人間を生命体の一種のメカニズムであると認識し、より大きな連続的システムの一部であると考えれば、真の本性が分かるのです。

定められた運命は存在しない

既存の生物学や物理学などはどれも、時間は停止できる、という前提に成り立っています。

しかし、現実世界では時間は止まりません。

さらにベルクソンの言葉を借りると、時間の持続の本性は、生命体の絶え間のない創造の力によるものです。

つまり、どんなに機械的な論理が発展しようとも、我々の運命を決定づけることはできないのです

機械論的思考は、時間という概念を排除するからこそ成り立つ概念です。

しかし実際は時間の流れに影響されるのが我々です。

生命活動は創造の衝動に突き動かされているだけで、目指すべき運命などはありません。

未来は計算することができません。だからこそ、自ら築き上げていくことができるのです

計画は、未来の形態を描くことによって、未来を閉じてしまう。生命活動の進化の前には、それとは反対に、いくつもの扉が未来に向かって大きく開かれている。

ベルクソン「創造的進化」

現代における哲学の役割

ベルクソンの主張する「生命の躍動」は、人間の本能や直感を指します。

合理的な思想が蔓延する現代社会において、これらの感性は軽視されがちなのは事実でしょう。

いくら物理化学やテクノロジーが発展しようと、それらはあくまで物質主義的な世界観にしか価値を提供しておらず、生命本性の理解からは遠ざかっています、

そうなると、いつかその弾みが現実世界で現われ、大変な事態が発生するかもしれません。

現代社会における哲学の役割とは、物質主義的な世界と生命活動の融和を促進することでしょう。

つまりは、現代社会において失われかけている人間本性の力、本能や直感を思い出させる、ということです。

いつの時代であっても、人間の本性は変わりません。

どんなに物質主義的文化が発展しようと、我々はその範疇に収まることのできない生命体なのです。

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ベルクソン「創造的進化」まとめ

ベルクソンは「創造的進化」を通して、人間の創造性や自由意志の可能性を強く訴えました。

彼の楽観的な思想は、多くの人を虜にし、彼の力強い言葉は多くの人の心の支えとなりました。

彼の生きた時代と違い、現代社会はさらに物質主義的価値観が加速しています。

だからこそ、ベルクソンの主張は一読の価値があるのです。

以下記事のまとめです。

  • ベルクソンはフランスの哲学者である。
  • 彼は「生命の躍動」という概念を通して、人間の創造性を主張した。
  • 人間は内的衝動(創造的衝動)に突き動かされ、機械論的な法則をすり抜けて、新しい未来を創造することができる。
  • 物質主義が加速している現代において、哲学の重要性は増している。

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