現代は功利主義的な思想が一般的となっています。
この思想を初めて提唱したがジェレミー・ベンサムです。
彼の主張する「最大多数の最大幸福」という概念は、行政法体系を中心に多くの分野に影響を与えています。
この記事では、そんなベンサムの著書である「道徳および立法の諸原理序説」について解説していきます😆
ジェレミー・ベンサムとは
ジェレミー・ベンサム(1748-1832)はイギリスの哲学者・法学者です。
功利主義の理念を生み出したことで知られており、その思想は後の法体系に大きな影響をもたらしました。
主な著書には「立法論」「義務論」「道徳および立法の諸原理序説」などがあります。
ベンサムはロンドンの裕福な家庭に生まれます。
幼いころから歴史などの学問を熱心に学んでおり、周りからは神童と呼ばれていたようです。
父の勧めでオックスフォード大学のクイーンズカレッジに入学した後、同大学で文学学士号と文学修士号を取得しました。
またリンカーン法曹院にて法律家になるための訓練をし、1769年には弁護士資格を得ます。
しかし、法曹界にて働こうと考えていたベンサムは、その実情を知り幻滅してしまいます。
イギリスの法典はあまりにも複雑であり、誤魔化されている部分が何か所も存在したからです。
彼は、法律を実践するのではなく、記述することを決心します。
以降、彼は法律や社会に関する著述を40年近く行います。
彼の提案は貧困者への給付制度や下水整備、選挙権の改変や監獄の構想(パノプティコン)まで様々な分野に及びました。
ベンサム「道徳および立法の諸原理序説」の解説
「道徳および立法の諸原理序説」(1789)はジェレミー・ベンサムによって書かれた哲学書です。
執筆開始から9年の歳月をかけて書き上げられた本書は、功利主義原理をもとに法律(主に警報や民法、憲法など)の在り方を考察したものとなっています。
以降、詳しく解説していきます。
功利主義
ベンサムは功利主義をという道徳的原理を提案したことで知られています。
「道徳および立法の諸原理序説」についても、功利主義の観点から法律を研究した書物となっています。
では、功利主義とはどのような思想なのでしょうか?
功利主義とは、個人の幸福度を足し合わせた全体の幸福度が最大になることを目指す思想を指す
功利主義とは、個人の効用(幸福度や喜び)を足し合わせたものを最大化させることを目指す思想です。
快楽や幸福をもたらす行為は全て善であり、それらの正しい行為は効用を増やすことができます。
そして、これらの正しい行為を積み重ねていくことで、最大多数の最大幸福を目指すのです。
既存の法律の考察
ベンサムは功利主義を前提に、立法者の観点から既存の法律を考察していきます。
全ての原理原則を功利主義に当てはめ、それが正しいと判断できれば、どんな場合においても成立すると考えたのです。
いくつか事例を見てみましょう。
政治と宗教
例えばベンサムは、宗教が政治に関与するべきか否か、という議論について、関与すべきではない、と主張しています。
神の意志の名のもとに行われる行為は、大抵の場合に全体ではなく個人の主観が入ります。
この場合、功利主義の観点から、最大多数の最大幸福ではなく、特定の個人もしくはグループを救済しようとする主観が入っている、つまり法律として欠陥がある、ということが言えます。
具体的には、宗教の中には禁欲主義的思想が存在します。
これが実際に法律に組み込まれた事例は存在しないようですが、これを国家の法律として適応することは功利主義的に間違っていると言えるでしょう。
多くの人間は欲望に従って生きているため、欲望を抑えることを法律で規定することは、全体幸福に反してしまうのです。
法律と善悪の原理
善悪の原理についてはどうでしょうか?
善悪を司るのは刑事司法ですが、この部分こそ功利性を重視するべきだ、とベンサムは言います。
何が善であり、何が悪であるかを決めることは非常に難しい命題です。
法律という名前で善悪の原理を構築してしまえば、厳粛さを獲得することはできますが、実際は単なる好き嫌いの延長でしかないのです。
つまりは、官僚などの政府関係者にとって都合の良い法律ができやすいのです。
しかし、刑事司法は合理的な功利主義思想を前提とした、社会における最善を目指すべきです。
善悪を司る共感と反感の感情は、時と場合によって誤りを起こしてしまいます。
だからこそ、中立な立場である法律は徹底的に客観的な功利主義に乗っ取って立法されるべきなのです。
立法者が考慮すべきは、人々の幸福や快楽と安全を保障すること、つまりは最大多数の最大幸福だけなのです。
法律による幸福の実現
人間は基本的に幸福を追求する生き物であると、ベンサムは主張します。
これは、人間は本質的に利己的であるという意味でもあります。
しかし、個人があまりにも利己的な行動をとると、それは他者の幸福を下げる結果となります。
よって法律は、個人の幸福追求の自由を認めつつも、他人の幸福を減らすような行動を規制する、というバランスをとらなければいけないのです。
ベンサムは生涯を通して、法律という手段を使って社会の幸福を生み出すことを目指しました。
法律によって幸福を実現しようとしたのです。
この思想は現代となっては当たり前なものかもしれませんが、彼が生きていた時代のイギリスではとても革新的なアイデアでした。
18世紀のイギリスではコモン・ローという法体系がとられていました。
裁判官が過去に下した判決が、それ以降の判断を決定づけるという、判例法を採用していたのです。
つまり、過去の個人(裁判官)の判決がそのまま慣習となって法律化していたのです。
ベンサムはそんな現状に危機感を覚えたからこそ、法律を実践するのではなく記述する道を選んだのです。
理性だけが法律の基礎である
人間を拘束する力を持つ法律は、全てが理性だけで構築されるべきです。
権力者であろうが、一般市民であろうが、社会の誰もが利己的な理由で乱用することができない、合理的な法律が存在するべきです。
彼が目指したのは、特定の個人に利益や幸福が偏ることのない法律でした。
彼の功利主義的な思想は時代を先取りしたものだったのです。
また、彼の主張には感受性を持つ全ての生き物にも権利が存在するべきである、というものがあります。
権利を保持するか否かは、理性的に思考できるかではなく、苦しむ能力があるかどうか、で判断するべき、という主張です。
これは現代の動物権利を訴える運動の理論的根源となっています。
このように、彼の思想は現代にも多くの影響をもたらしているのです。
ベンサム「道徳および立法の諸原理序説」まとめ
ベンサムは「道徳および立法の諸原理序説」を通して、功利主義的な観点から法律のあるべき姿を解き明かしました。
法律は最大多数の最大幸福を達成するための手段であり、最適に構成できれば多くの人が今以上に幸福になれると、彼は信じていました。
ぜひ参考にしてみてください😆
以下記事のまとめです。
- ベンサムはイギリスの哲学者・法学者である
- 彼の提案した功利主義(最大多数の最大幸福を目指す思想)は現代の法律の基礎を築いた
- 法律は幸福を実現するための手段である
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