企業がしのぎを削って成長しているのと同じく、国家も他国との競争を勝ち抜いていく必要があります。
国家の競争戦略は国家が繁栄するためには必要不可欠なものです。
マイケル・ポーターは「国の競争優位」という本を通して、国家の経営戦略論に大きな影響を与えます。
過去の国家の施策や戦略と、その結果としての趨勢を研究することで、彼は国家運営の普遍的な法則を見つけ出そうとします。
この記事では、そんなポーターの著書「国の競争優位」について解説していきます。
マイケル・ポーターとは
マイケル・ポーター(1947-)とは、アメリカの経済学者です。
現在はハーバード大学経営大学院の教授を務めています。
彼の著書には「競争の戦略」「国の競争優位」「競争優位の戦略」などがあります。
「競争の戦略」に関しては経営戦略論の古典として多くの人に愛され、MBA取得者おすすめ経営学書ランキングで1位を獲得しています。
ポーターは1947年にミシガン州にて生まれます。
学生時代はフットボールと野球の有名選手であり、その後プリンストン大学に入学します。
大学を卒業し、ハーバード大学大学院に進学した彼は、1973年に経営経済学博士号を取得します。
現在はハーバード・ビジネススクールの教授であり、同大学の戦略・競争力研究所の創設にも貢献しています。
また、彼の生み出した経営戦略理論には、ファイブフォース分析やバリュー・チェーンなどがあります。
ポーター「国の競争優位」の解説
「国の競争優位」(1990)はマイケル・ポーターによって書かれた経済学書です。
マクロ経済学とミクロ経済学と経営学が統合された本書は、原書で800ページもある大作となっています。
彼は本書を通して、国のどんな環境が企業の発展につながり国家の繁栄に貢献するのか、その特性はどのようなものか、を研究します。
以降、詳しい内容について解説していきます。
国家の競争戦略
国家の競争戦略と聞くと、どのようなモノを思い浮かべるでしょうか?
政府主導で行われる産業政策などを想像される人もいるかもしれませんが、最も大切なのは国の環境であると、ポーターは主張します。
国の環境とはつまり、マクロ経済学的な環境と法律関連の環境をさします。
ミクロな視点での政府の介入は必要がないことを主張したのです。
それでは、国家の繁栄の原動力はなんでしょうか?
ポーターは、それは企業である、と答えます。
国家内に存在するたくさんの産業の中で、無数の企業が競争を繰り広げた結果として、国は経済的・社会的に成長していくのです。
つまり彼は、国家として企業が自由に競争できる環境を整えることに終始するべきである、という意見を持っていたわけです。
また、現代は経済の観点からもグローバル化が進んでいます。
国家の成功要因にも変化が生まれています。
経済学者のリカードは、国に存在している資源や労働への投資を軸に貿易について考えました(比較優位説)。
ポーターは彼の主張に反対し、国家内に既に存在している資源などの重要性はグローバル経済下では下がると、しています。
事実、資源を多く保持する国家が経済的に繁栄していないケースや、逆に資源はないけど経済は大きく発展したケースもあります。
彼の競争優位理論では、自然発生的な優位性ではなく、その国家が何を選択するのか、に重きを置きます。
環境を整える
ポーターの競争戦略の軸は、優れた経済環境を構築することです。
優れた経済環境とは、自然と競争が生まれることや、労働者1人あたり生産性が向上するような環境を指します。
彼は具体的に以下のようなアイデアを提案しています。
- 貿易障壁を減らす(関税や保護貿易的政策の削除)
- 高度な教育と訓練の提供
- 経済内の安全な競争の保障(独占禁止法や環境保護法など)
また、経済環境の方向性として、賃金を下げ労働コストを減らしていく、いわゆる「底辺の競争」はやってはいけないといいます。
テクノロジーが発展した現代において、労働コストで他国と競争することは筋が悪いのです。
多くの職業において、ロボットやAIによる代替が進み、人間よりも機械の方が安上りな時代がきてしまうからです。
ポーターは、グローバル経済において成功するのは、付加価値の高い製品を作り、環境保護や社会貢献をしている人に、適正な賃金支払いをすることができる国だと言います。
ダイヤモンド理論
ポーターが生み出した国の競争優位を示すフレームワークに、ダイヤモンド理論というものがあります。
これは、国の優位性というのは4つ要素から成り立つことを指す理論です。
ダイヤモンド理論とは、国家の優位性を生み出す4つの要素をまとめたフレームワークを指す
4つの要素は次の通りです。
- 生産要素(労働者やインフラ、資源や市場に関する知識など)
- 需要条件(商品に対する需要や、買い手の要求水準など)
- 関連・支援産業(産業への支援体制など)
- ミクロ経済学的環境(企業同士の競争の程度や、政治的条件など)
また、政府の役割は法律や政策を通して国家産業を方向性を決定し、4つのダイヤモンドに影響を与えていくことです。
つまり、国家の役割は国の優位をゼロから作り出すのではなく、優位が生まれてきやすい環境を整えることなのです。
この理論から分かることは、国家における普遍的な成功法則は存在せず、社会的・経済的歴史と価値観や思想によって、成功モデルは違うということです。
どんな国でも経済発展の可能性は存在すると、ポーターは言います。
それを活かすも殺すも、国家の戦略次第なのです。
具体的な事例を考えてみましょう。
例えば、ドイツでは消費者の自動車へのこだわりが非常に強いです。
この特徴が、ドイツという経済圏における、世界的な自動車製造会社の出現を支えました。
またアメリカではクレジット好きな国民性、派手なものを好む大衆文化などが、マスターカードの出現やハリウッドの誕生に必然性を持たせます。
オランダでは寒冷で曇りがちという生産要因が、野菜栽培や切り花の産業を大きく発展させました。
クラスター戦略
国家の取れる戦略において、ポーターがオススメするのがクラスター戦略です。
クラスター戦略とは、企業や資源供給者、労働者や支援企業に銀行など、産業に関わる色々な団体を一か所に集めることを指します。
クラスター戦略とは、産業のステークホルダーを一か所に集める戦略を指す
この戦略の良いところはいくつもあります。列挙すると以下のようになります。
- 情報伝達速度の向上
- 新たな技術やアイデアをすぐに導入できる
- 競争が生まれる
特に、企業同士がお互いに切磋琢磨していく関係性を築くことが、産業全体を繁栄させるためには大切です。
具体的なクラスター戦略の事例では、ロンドンやシリコンバレーが挙げられます。
グローバリゼーションのおかげで、地理的条件はあまり重要でなくなってきました。
テクノロジーの発展はこれからさらに、地理的制約の限界を突破してくれるでしょう。
しかしポーターは、クラスター戦略の重要性は高まる、としています。
国家の競争優位は企業によって生まれ、企業の繁栄は圧力や競争、挑戦などから生まれます。
企業が常に競争を強いられるような、適度な環境を作れるかどうかが、国家繁栄のカギとなるのです。
国家の衰退
人間はその自然的傾向から、安定を求めてしまいます。
経済が発展してある程度の富が貯蓄できれば、その富を新たな投資に回すのではなく保持し続けることを選んでしまいがちです。
これは国家においても同じ傾向が見られます。
そして、競争を減らし安定を取る戦略は、いずれ国家の衰退に繋がる、とポーターは言います。
国家は繁栄のためには競争を生み出す環境が必要です。
しかし、この競争が不安定を生み出すことも事実です。
多くの人が安定を望むかもしれませんが、それでは国家は成長を止めます。
安定を求めるとイノベーションが減り、企業は成長が止まり買収合併が増加、生産性は低下し、社会は停滞してしまうのです。
国家は経済の発展を推進しつつも、社会の安定性をどこまで保障できるかが、これからの時代の国家繁栄のカギとなっていくでしょう。
マイケル・ポーター「国の競争優位」まとめ
マイケル・ポーターは「国の競争優位」を通して、経営学の観点から国家繁栄のための理論を構築しました
彼の生み出したダイヤモンド理論は、ニュージーランドやシンガポール、ノルウェーやオランダに香港など、様々な地域で採用されています。
また、クラスター戦略に関してもアメリカのシリコンバレーを筆頭に各地で実践が進んでいます。
ぜひ参考にしてみてください😆
以下、記事のまとめです。
- マイケル・ポーターとはアメリカの経営学者である。
- 彼は既存のマクロ・ミクロ経済学に経営学の観点を加え、国家の戦略についてを研究した。
- 国家繁栄の戦略の軸は、企業競争が発生するような環境を整えること。
- 彼の生み出したダイヤモンド理論とクラスター戦略は、世界中で採用されている。
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