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ポール・クルーグマン「格差は作られた」を分かりやすく解説

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アメリカではジョー・バイデンが新たな大統領になりました。

大きな分断を内包するアメリカをまとめあげることができるのか、期待が高まっています。

アメリカでは経済格差の広がりが問題視されています。

なぜアメリカはあそこまでの格差を生み出すに至ってしまったのか?

この謎について研究した人物がいます。ポール・クルーグマンです。

この記事では、ポール・クルーグマン著「格差は作られた」について解説していきます😆

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ポール・クルーグマンとは

Wikipedia参照

ポール・ロビン・クルーグマン(1953-)とはアメリカの経済学者・コラムニストです。

ニューヨークタイムズのサイト上にブログを持っており、そこでは政治的な発信をすることで、常に論争を巻き起こしています。

彼の主な書籍には、「格差は作られた」「さっさと不況を終わらせろ」「クルーグマン教授の経済学入門」などがあります。

なお彼は、2008年度のノーベル経済学賞を受賞しています。

クルーグマンは保険業界で働く父を持ち、ニューヨークに生まれました。

イェール大学にて学士を、MITにて経済学の博士号を取得しています。

今までにMITやプリンストン大学、スタンフォード大学やニューヨーク私立大学大学院などで経済学教授を務めています。

ノーベル経済学賞の受賞理由は、「新貿易論」と「新経済地理学」に関する研究の成果が評価されたからとされています。

ただ、クルーグマンはこの分野以外にも精力的に研究を続けており、所得格差や通貨危機の問題にも関心を抱いています。

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クルーグマン「格差は作られた」の解説

「格差は作られた」(2007)はポール・クルーグマンによって書かれた本です。

所得格差を引き起こしたのは技術やテクノロジーの発達ではなく、人為的に作られたものである、という衝撃的な主張は大きの人を驚かせます。

彼の主張について詳しく解説していきます。

格差の原因は政治的イデオロギー

本書で語られるクルーグマンの主張は次のようになります。

アメリカの経済格差を生み出したのは、技術の発展やグローバリゼーションの影響ではなく、共和党の政治的イデオロギーや政策である。

現代のアメリカがかかえる格差問題の原因は、実は共和党によって作られたものである、と訴えているのです。

アメリカの歴史を振り返ってみると、格差が広がった時期と圧縮された時期が存在しています。

なぜ、国民の多くが求めているはずの格差是正は阻まれ、格差が広がっていってしまうのか?

それは共和党の保守的な活動(保守派ムーブメント)が、アメリカの中流階級を破壊しているからだとクルーグマンは言います。

彼らの掲げるイデオロギーに従っていると、気が付いたときには格差は広がっているのです。

アメリカの格差の歴史を南北戦争以降ざっと見てみましょう。

南北戦争以降の不平等な世界

南北戦争以降の世界、つまり1870-1930年代のアメリカは、富と権力の大きな格差が存在する社会でした。

例えば、富裕層への課税は1%とされていました。(現代では20%ほど)

また、権力の観点から見ても、国民の1/4は政治に参加することができていませんでした。

なぜなら、移民の人々や黒人は投票権を持っていなかったからです。

公民権すらも剥奪され、政治的要求が反映されることはなかったのです。

形だけの民主主義によって構成された当時のアメリカは、まさに不平等な世界でした。

持たざる者たちは経済的に不安定な生活を強いられ、社会的な保障制度も存在しないのです。

上流階級と下流階級、富裕層と貧困層の分断された世界を変えるには、その間の中産階級を生み出し、平等な社会を作る必要がありました。

なおクルーグマンは、中産階級は自然発生的には生まれない、よって政治的につくられる必要がある、としています。

ニューディール政策による格差の是正

アメリカの格差はある時期に急激に圧縮されます。

それは、大恐慌が発生した時期に行われたルーズベルト大統領によるニューディール政策によるものです。

ニューディール政策では公共投資を積極的に行い、アメリカ中に金銭をいきわたらせ、失業保険の制定や新たな社会保障制度などを成し遂げます。

またルーズベルト政権は他にも全国労働関係法の制定など、労働者を支える政策を行っていきます。この法律によって労働者は団結権や団体交渉権を獲得しました。

政府の介入により、アメリカ国内には中産階級が大量発生、経済格差は急激に縮小したのでした。

それからのアメリカは繁栄時代を迎えます。

特に第二次世界大戦以降の繫栄具合は凄まじく、多くの国民が自由で快適な生活を営んでいました。

誰しもが住宅と車を所有し、保険制度などの社会保障に守られながら、安定した定職についていたのです。

クルーグマンは、この時期にアメリカは理想的な民主主義に近づいた、と主張します。

新たな不平等の到来

一度は縮小した経済格差ですが、近年また広がりを見せています。

戦後アメリカと比べて確実に生産性は上がっていますし、GDPも上昇しています。

しかし、多くの国民はその繁栄を感じることができていないでしょう。

事実、一部の富裕層のみが金銭的報酬を大量に獲得し、それ以外に所得はむしろ下がっているのです。

現在の30-40代のアメリカ人男性の所得平均値は、1973年と比べて上昇しています。しかし、所得中央値は12%も下落しています。

多くの人が格差の原因はデジタルテクノロジーの発展やグローバリゼーションによるものだと主張します。

確かにこれらの要因も挙げられるでしょう。

しかしクルーグマンは、歴史的に振り返ってみれば分かるように、アメリカ政府が作り出した制度や法律、イデオロギーにこそ根本的な原因があると言うのです。

現在の格差拡大を説明する政治的な理由を挙げるのなら、共和党による労働組合の破壊でしょう。

労働組合に対して反感を抱いている共和党や大企業は、労働組合の勢力を弱めようとします。

実際のデータを見ても、1960年には30%だった労働者参加率は、現在では11%まで下がっています。

このような活動(共和党による保守派ムーブメント)によって、アメリカ内の中流階級は壊され、格差は広がっているのだと、クルーグマンは主張します。

なぜ共和党を支持するのか?

1970年代に右派が共和党を乗っとってからというもの、所得格差は広がりを見せています。

格差の拡大を好まない人は多いでしょう。さらに、莫大な富を得ているのはほんの一握りの人々です。皆が一致団結すれば民主主義社会の名のもとに、平等を勝ち取れるはずです。

では、なぜアメリカ国民は格差を広げる可能性の高い共和党を支持し、投票してしまうのでしょうか?

ここには、共和党の巧妙な作戦があったとクルーグマンは言います。

例えば一例として、共和党は国民の目を格差問題からそらすために、安全保障問題を活用しました。

2001年の同時多発テロを皮切りに、アメリカはイラク戦争に突入します。

すると、国民は国家の安全に意識が向きます。平等がどうだとかの問題は後回しになり、現在の課題に集中するのです。

テロは偶発的なものだったとしても、そこに関する話題を持ち上げることで、国民の経済への関心を相対的に引き下げたのでした。

現在のアメリカ国民

クルーグマンは、現代のアメリカ国民は中道左派が多数派である、と主張します。

主な理由は移民の増加です。

移民の多くはヒスパニック系かアジア系です。

すると、右派的(反政府的な)なイデオロギーには共感しないのと共に、白人よりの政策を主張する共和党にも嫌悪感を抱きます。それよりも多様性や平等を訴える左派的な思想に向くでしょう。

なので、彼は偏りすぎない中道左派という言い方をします。

実際の政治結果を見てみると、クルーグマンの主張は正しいとも間違っているとも言えません。

2012年にはオバマ(民主党)が当選、2016年にはトランプ(共和党)が当選し、2020年にはバイデン(民主党)が当選しています。

ただ、事実として言えることは、現在のアメリカ国内では深刻な格差が生じていることでしょう。

富や思想の分断がここまで顕著に現れた時代はなかなかありません。

これからのアメリカ情勢に注目する必要があるでしょう。

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ポール・クルーグマン「格差は作られた」まとめ

ポール・クルーグマンは「格差は作られた」を通して、アメリカ内の格差の原因が共和党による人為的なものであることを主張しました。

また、現在のアメリカの多数派は中道左派であるという見解も述べています。

彼の主張は論争を引き起こすことが多々あります。盲目的信じ込むのではなく、本書を思考のきっかけにしてみると良いかもしれません。

以下記事のまとめです。

  • ポール・クルーグマンはアメリカの経済学者・コラムニストである。
  • アメリカ国内の経済的格差はテクノロジーの発達やグローバリゼーションが原因ではなく、共和党によって人為的に作られたものである。

ぜひ参考にしてみてください。

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