あなたが思う理想的な教育はなんでしょうか?
優しい人を育てる、競争に勝てる人を育てる、社会を変えられるような人を育てる、色々とあるでしょう。
人間の理想的な教育論を唱えた本に「エミール」という本があります。
ルソーという哲学者が書いたもので、自然人と社会人の両立を目指した教育について詳しく説明されています。
この記事では、そんなルソー「エミール」について解説していきます。
ルソーとは
ジャン=ジャック・ルソー(1712-1778)とはフランスの哲学者・作曲家です。
非常に才能に溢れた人物であり、哲学者でありながらも音楽家としてオペラを作ったりしていました。
例えば「むすんでひらいて」という童謡は、ルソーの「村の占い師」というオペラから作られています。
また政治哲学に関しても一流であり、フランス革命にまで影響を与えたとされています。
ジュネーブで生まれたルソーは、生後間もなく母親を失います。
そして時計職人であった父親も10歳のときに決闘沙汰が原因で逃亡、孤児になってしまいます。
15歳で故郷を離れてからは、夫を亡くした夫人のところに転がり込み、そこにあった本を読んで教養を得ます。
しっかりと学校に通うことができなかったルソーは、独学で学びを深めたのでした。
彼の才能が認められたのは、彼が38歳のときでした。
「学問芸術論」という懸賞論文で優勝を果たしたのです。
そこから彼の影響力は増していきます。
ルソー「エミール」の解説
「エミール」とは、ルソーが書いた著書の1つです。
民主的な社会を担えるような人を育てるための教育論についてが記されています。
彼の別の著書である「社会契約論」では、理想的な社会についてが描かれていますが、「エミール」では、そんな理想的な社会を作り出すのに必要な教育についてが書かれているのです。
「エミール」は5編から成り立ちます。
- 乳幼児期
- 児童・少年前期
- 少年後期
- 思春期・青年期
- 青年期最後の時期
それぞれのフェーズに合わせて、最適な教育を提供していくのがルソーの目指す理想的な教育です。
彼の教育におけるゴールは自然人と社会人の統合でした。
ルソーの教育の目的は、自然人と社会人の統合
自然人 = 自分を満たすために生きる
社会人 = 社会に適合する
社会に合わせて生きようとすると、自分の幸せが疎かになってしまいます。
しかし自分の幸せだけを追求すると、社会に適合できなくなってしまいます。
ルソーはこのどちらをも同時に達成できるような人間を生み出す教育論を作ったのでした。
ざっくりと彼の教育論の全体像を説明すると、1-3編では自然人教育を施し、4-5では社会人教育を施します。
幼いころは自分の幸せだけを追求させ、成長してきたら社会的な学びも加えていく、という戦略です。
乳幼児期
生まれたばかりのこのフェーズでは、感覚と感情を育む教育をします。
具体的には、感覚を養うために運動をさせます。
感情を養うために、快不快の認識がしっかりとできるようにします。
快と不快の認識とは、お腹が空いたときやのどが乾いたとき、オムツが汚れたときなどに、しっかりと対応してあげることで養われていきます。
不快になると赤ちゃんは泣く、泣いた結果不快は解消される、という正しい感情の流れを養わないと、将来的に感情的異常が発生してしまいます。
児童・少年前期
第二フェーズでは、特に感覚と知覚に注目します。
人間の五感を通した感覚と、そこから脳内へ処理される知覚を発達させていきます。
具体的な方法としては、ありとあらゆることをさせるに尽きます。
走る・泳ぐから、触る・嗅ぐなど、ありとあらゆる感覚と知覚を体験して、養っていくのです。
大切なのは、触った感触はこうなるべき、といった社会的な正解を子供に押し付けないことです。
ルソーの教育では、思春期になるまでの子供には社会的な要素を教えることはありません。
社会に子供を合わせるのではなく、子供が育つままに教育するのです。
彼が目指す教育は、英才教育ではなく、本当の意味で自由に生きられる人間教育なのです。
少年後期
感覚と知覚がある程度成長したら、次は知的・抽象的観念を教えていきます。
主なキーワードは以下の2つです。
- 好奇心
- 有用性
感覚と知覚が発達したら、物事に対しての思考ができるようになってきます。
- なぜ太陽は沈むのか
- なぜ森は生まれるのか
- なぜ魚は地上では暮らせないのか
事象を認識したうえで、そこから一歩先の関係性やカテゴリーについてを考えられるようになるのです。
この、事象に対する思考を深めていく”好奇心”を養ってあげましょう。
ポイントは、あくまで子供の好奇心を養ってあげるだけで、答えは与えないということです。
自分なりに思考して答えを出すというプロセスが重要なのであって、答えがあっているか間違っているかは重要ではありません。
また、学ぶことの”有用性”を伝えることも重要です。
人間はそれを知ることに”有用性”を感じなければ、モチベーションが下がってしまいます。
好奇心をより刺激するためにも、その事象について知ることがどれだけ有用であるかを教えてあげる必要があるのです。
思春期・青年期
物理的な感覚や知覚から、一歩先の思考を巡らせるところまでを達成したこのフェーズでは、より抽象度の高い教育を施していきます。
自然人ではなく、社会人としての素養を養わせていくのです。
具体的には、理性と道徳についてを教えていきます。
多くの人はこの段階において、周りからの目が気になるようになり、競争心に目覚めます。
しかし、ルソーとしては、他者への共感力や思いやりを育てたいです。
そこで彼が注目したのは”自己愛”でした。
人間は情念によって行動を起こします。
情念とは、哲学用語であり、自分の意志から生まれるのではなく、やってきてしまう感情を指します。
そして、情念は自己愛と自尊心の2つの要素から成り立ちます。
他者への共感を無意識に行うレベルに落とし込みたかったルソーは、自己愛と自尊心を養ってあげることで、社会への貢献を勝手に行う理想的な社会人を生み出そうとします。
情念とは、無意識にでてくる感情のことである
情念 = 自己愛 × 自尊心
このフェーズでの具体的な教育内容は、社会・歴史・宗教です。
社会・歴史を学ぶことで、社会人としての理解を深めます。
人間を知ることで社会の善悪を判断できるようになります。
社会を知ることで、人間の想いや感情を知ることができるようになります。
これらを通して、多様な人々への想像力と共感力を養おうとします。
また宗教を学ぶことで、自己愛と自尊心を養わせます。
宗教に関する詳しい説明は省きますが、ルソーは「生きる意味」という問題に対して「人間は良い事をするために神が作った」という答えを出します。
そして、宗教を通して以下のことを伝えます。
- 自分の才能を有益に用いることが幸福な未来に繋がる
- 無用な人間は存在しない
- 神は我々に善行を求めている
青年期最後の時期
「エミール」の教育論における最終編は、幸福と徳についての教育です。
人間は生まれてきたからには幸福にならねばなりません。
しかし、そこに強大な敵が現れます。
その強大な敵とは”自分自身”です。
人間は、欲望や自己評価によって自分を縛り付けています。
そしてその欲望に抵抗できない人は、恐ろしい罪に陥るとルソーは説明します。
だからこそ、欲望に支配されるのではなく、欲望を支配することが重要なのです。
ルソーの理想的な民主主義を描いた「社会契約論」において、彼は”個人の権利よりも全体の幸福”を主張します。
個人の幸福の最大化ではなく、全体幸福の最大化を目指したのです。
それが、欲望を支配し、「君自身の支配者」になることを学ぶべきだと主張する理由です。
全ての人民が欲望に支配された民主主義社会では、すぐに崩壊してしまいます。
欲望に支配されるのではなく、道徳や理性などを踏まえて社会への貢献を考えていくことが、全体幸福に繋がるのです。
自然人と社会人の両立
ルソーが目指したのは、自然人と社会人が両立した理想的な人間を生み出すための教育でした。
ざっくりと彼の教育を振り返ると、幼いころは個性を爆発させ好きなようにさせる、思春期あたりからは、社会の一員としての自覚を持たせ、社会への貢献や他者への思いやりを学ばせる、というものでした。
自分軸を持って、個性を失わないようにしながらも、他者への共感ができる人間を目指したのです。
そして、これを達成するためのポイントは”自己愛”でしょう。
自分の価値観や軸に自信を持っていないと、それらは失われてしまうでしょう。
社会人になるということは、社会的な理想の人間像を与えられるということでもあります。
理想的な自然人と理想的な社会人は必ずしも一致しないことが多いです。
そんな中で、しっかりと折り合いをつけて両者を両立させるには、自分の生き方や考え方に自信と信頼を抱く必要があります。
そして、その自信と信頼の泉源こそが”自己愛”なのです。
ルソー「エミール」まとめ
ルソーは「エミール」を通して、理想的な教育について説明しています。
自然人と社会人の両立ができたとき、その人は本当に自由になれるとルソーはいいます。
ぜひ参考にしてみてください😆
以下記事のまとめです
- ルソーの教育論では、自然人と社会人の両立を目指す
- 乳幼児期には、快・不快について教える
- 児童・少年前期には、感覚・知覚を学ばせる
- 少年後期には、好奇心・有用性を教える
- 思春期・青年期には、理性・道徳を教える
- 青年期最後の時期には、幸福・徳について説く
コメント