世界人口は現在でも増え続けています。
多くの人は大局観を持つことなく、何となく暮らしているかもしれません。
トマス・マルサスという経済学者は、誰よりも早く人類の人口増加の危険性に気づき、警鐘を鳴らしました。
彼の現実的な視点は多くの人に衝撃を与えました。
彼の思想は、ダーウィンの進化論発見に影響を与え、中国の一人っ子政策の知的根拠となりました。
この記事ではそんなトマス・マルサスの著書「人口論」について解説していきます😆
トマス・マルサスとは
トマス・ロバート・マルサス(1766-1834)はイギリスの経済学者です。
過少消費説、有効需要論を唱えた人物として知られる一方、人口に関する研究を行ったことでも有名です。
彼の主な著書には「人口論」「経済学原理」「経済学における諸定義」などがあります。
イギリスのサリー州の裕福な家庭に生まれたマルサスは、ケンブリッジ大学ジーザス・カレッジに入学します。
彼は大学を卒業した後に研究員を経て、東インドカレッジにて歴史学と経済学を教えます。
また、熱心なキリスト教信者だったこともあり、牧師としての役割も果たします。
1798年に匿名で出版した経済書「人口論」は大きな反響を呼びました。
彼の経済的主張は、度々デヴィッド・リカードとの対立を生むものでしたが(主に地代論や価値と需要の関係性など)、生涯を通じて親しい友人であったとされています。
彼は生涯を東インドカレッジの教授として終えました。
トマス・マルサス「人口論」の解説
「人口論」(1798)は、トマス・マルサスによって出版された経済学書です。
人口増加による食糧不足問題を解決しない限り、人類は進歩しない、という悲観的な思想を記した本書は、当時の人々に大きな反響を呼びました。
彼の思想はダーウィンの進化論というアイデアにも影響を与えました。
以降、詳しく解説していきます。
時代背景
「人口論」が出版された時期である18-19世紀は、人類史上もっとも社会の構造が変わった時代とされています。
産業革命が起こり、経済が発展する一方、人々の働き方や社会との関わり方は大きく変わりました。
そしてこの時代には、ある思想が主流となっていました。
それが、人間理性の啓蒙をすることによって、理想社会の実現を目指すウィリアム・ゴドウィンやニコラ・ド・コンドルセへらの思想です。
人間には無限の可能性があり、身体的・知的だけでなく、道徳的にも進歩していく、という考えです。
道徳的な進歩とは、将来的な階級格差の是正、社会の繁栄と平和の両立などに繋がります。
産業革命による生産性の爆発的な増加や社会の急激な繁栄は、人々を楽観的・理想主義的な思想にさせたのです。
人口>食糧
多くの人が楽観的な思想に浸っているときに、マルサスは非常に現実的な視点で人口について主張することで、水を差します。
彼の経済主張は非常に単純明快です。
人口は等比級数的に増加する一方、食糧は等差級数的に増加するため、人類は飢餓にさらされる危険性がある。
また、人口と食糧のずれは貧困や悪徳を生じさせるため、道徳的な抑制による人口対策をする必要がある。
というものです。
人類が生存するためには食糧確保は絶対必須です。
また、男女間の性欲がなくなることはなく、将来的にも存続していくことが予想されます。
この2つの前提を踏まえて、彼は上記の主張を導き出したのです。
人口増加の問題点
人口増加は経済的にも問題を引き起こします。
それは、食糧価格の上昇と賃金の低下に伴う、貧困や飢餓の発生です。
人口が増えると、食糧の値段は増加します。単純に供給量が変わらずに需要が増加するからです。
一方労働者が得る賃金は低下します。なぜなら、人口増加による労働者の余りが発生し、雇い主は労働力をできるだけ安値で雇用しようとするからです。
食糧の値段は上がり、労働者の賃金は下がる、このような状況では、経済的な観点からも人々が飢餓に追い込まれてしまうことが分かります。
また、人口増加の問題点は他にもあります。
人口増加を抑制するためには、子供の数を減らす、つまり結婚の抑制をすることが効果的だと、マルサスは考えます。
(これには納得できない方もいるかと思いますが、現代と18-19世紀における家庭観の違いや、マルサス自身が熱心なキリスト教信者だったことが主な要因と考えられます。)
家庭を持った場合、現在の豊かな暮らしを維持することができないかも、という不安が早婚を避けさせる、という考えです。
マルサスは禁欲と晩婚化という軸から、人口問題へ対処するべきだと考えていました。
しかし、晩婚化は新たな問題を生みます。
それが、男性による売春婦の利用です。
マルサスの価値観的には、売春という行為は悪徳に当てはまったのでしょう。
彼は、”人間の性欲は貧困と悪徳のどちらかを生む以外にない”と言っています。
食糧増加の問題点
なぜ食糧生産量はあまり増えないのでしょうか?
これは限界地という概念を理解すると分かりやすいです。
限界地とは、あまりにも生産性が低く(土質が悪すぎる、寒暖差が激しすぎる、水がないなど)、地代を生じない土地を指す
マルサスの主張は次の通りです。
まず、土地や農業用器具を改良したところで、生産性の大幅な向上を見込めません。
また、限界地を改良することで新たな農業地域を生み出すことは、食糧不足の解決手段にはなりうるが、地主は経済的に割に合いません。
つまり、食糧の需要が増加したとしても、わざわざ限界地を耕作するのはコストが高すぎて赤字になってしまうのです。
社会福祉は依存をもたらす
マルサスの住むイギリスには、救貧法という福祉制度が存在していました。
救貧法とは、教会は教区を通じて貧民を救済しなければならない(主に食糧供給など)という制度を指す
マルサスはこの制度には2つの観点から問題があることを主張、廃止を要求します。
まず、社会福祉制度は貧困層の依存を加速させました。
自分たちは努力しなくても、勝手に子供をどんどん産んでも、教会が最低限の食糧を配布してくれるし大丈夫だろう!という無責任な依存をする労働者が増えたのです。
結果的に人口は増加していき、貧しい人々はさらに救貧法の制度に頼ることとなります。
また、福祉制度は貧困層の幸福を減少させる可能性があります。
上記のように、システムに依存した人々は倫理観やモラルが欠落していきます。
すると、自分の幸せや将来のことを考えることを放棄し、常に誰かが救済してくれる、という精神状態になってしまいます。
マルサスはこの状態は不幸である、と表現しました。
飢餓への意識が繁栄をもたらす
彼の思想は神学的な観点を持っています。
そして、彼の経済主張の核もまた、神学の視点から語られています。
人類が社会を築き、繁栄してこれたのはなぜでしょうか?
それは、いつの時代の人間も、より安定した食糧供給を求めて農業を発展させ、産業を興してきたからです。
そして、人口は食糧よりも早く増加してしまう、という自然法則が存在しています。
はるか昔から続く人類史の中には、飢餓への危機意識をしっかりと持ち、継続的な努力を重ねることによって生まれる勝者と、堕落した生活を営み貧困と飢餓に苦しむ敗者が存在しました。
このような多様性が生まれるのもまた、神のもたらす自然法則にすぎません。
だからこそ、人間はしっかりと創造主の意思を汲み取り、勝者になるための努力をする必要があります。
一人ひとりの正しい生き方が、繁栄をもたらすのです。
トマス・マルサス「人口論」まとめ
トマス・マルサスは「人口論」を通して、人口と食糧のアンバランスを主張し、人口抑制の必要性を訴えました。
彼の主張は当時の楽観的な人々に衝撃を与えました。
一方、彼の主張は現代から見ると的外れな点もいくつか存在しています。
例えば農業器具は大きな改良を施され、生産性は今もなお確実に上がり続けています。
ただ、当時の時代背景において、大局観を持って将来を見据えていたその視座の高さには感嘆させられます。
以下記事のまとめです。
- トマス・マルサスとはイギリスの経済学者である。
- 人口は等比級数的に増加する一方、食糧は等差級数的に増加するため、人類は飢餓にさらされる危険性がある。
- 人口と食糧のずれは貧困や悪徳を生じさせるため、道徳的な抑制による人口対策をする必要がある。
ぜひ参考にしてみてください😆
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