マネジメント論の金字塔として知られるピーター・ドラッカー。
「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」という本が近年に流行ったこともあり、その名前を知っている人は多いのではないでしょうか?
彼は既存の経済学が重視した技術や資本、労働などに加えて、企業家精神とイノベーションのマネジメントの重要性を説きました。
この記事ではドラッカーの著書「イノベーションと企業家精神」について解説していきます😆
ドラッカーとは
ピーター・ファーディナンド・ドラッカー(1909-2005)は、ユダヤ系オーストリア人の経営学者です。
イノベーションを体系化し、マネジメント論を確立、現代経営学の基礎を築いた人物です。
彼の主な著書は「イノベーションと企業家精神」「現代の経営」「ポスト資本主義社会」などがあります。
ドラッカーは1909年にオーストリアに生まれます。
ギムナジウムを卒業後、フランクフルト大学で公法と国際法の博士号を取得しました。
大学を卒業したのちは、ロンドンでジャーナリストとして働き、後にアメリカに移住、1943年に市民権を獲得します。
その後、ニューヨーク大学やクレアモント大学大学院にて教授を務めました。
その間に「イノベーションと企業家精神」をはじめとする多くの書籍を出版します。
彼は2002年にブッシュ大統領から、大統領自由勲章を授与されました。
ドラッカー「イノベーションと企業家精神」の解説
「イノベーションと企業家精神」(1985)はドラッカーによって書かれた経済学書です。
当時は一つの事象として捉えられていたイノベーションという概念を体系化、同時にマネジメントの重要性を説き、経営学に新たな可能性を芽吹かせました。
以降、詳しい内容について解説していきます。
企業家精神
ドラッカーは企業家精神の重要性を語るために、過去のアメリカ経済の事例を取り上げます。
1965-1985年のアメリカ経済は悲惨なものでした。
オイルショックなどのアクシデントが積み重なり、インフレの発生に伴う景気の後退が進んでいました。
そこで特に問題視されていたのが、大量の雇用喪失です。
大量の企業が労働者削減により企業の経営を何とか持ちこたえさせようとしたため、失業者が大量発生すると予想されていました。
しかし、実際は全体として雇用の数は増加していました。
なぜ、不況にも関わらず雇用は増えていたのでしょうか?
それは、4000万人以上の新規雇用が発生していたからです。さらに、その多くは中小企業によるものでした。
この現象を一言で、テクノロジーの発展に伴うハイテク産業が増加したから、と説明することは簡単です。
しかし、データで当時の状況を調べてみると、ハイテク産業の新規雇用は全体の1/8ほどです。
ドラッカーは、雇用創出のカギとなったのは、技術やテクノロジーではなく、企業家精神のマネジメントであったと主張します。
企業家とは何か
ドラッカーは、企業家精神を持った人物のことを企業家と呼びます。
企業家の定義については、ドラッカーは経済学者であるセイの主張に概ね賛成しています。
企業家とは、経済的な資源を生産性が低いところから高いところへ、収益が小さいところから大きなところへと移動させる人、を指す
古典派経済学では、資源の最適な分配こそが利益を最大化すると主張します。
いつかは経済が均衡し、完全な最適化が完了する、ということです。
この観点から考えると、企業家の本性とは、築き上げられたものを破壊し解体する者である、と言えるでしょう。
カール・マルクスやシュンペーターが主張する創造的破壊を通して富を生み出すのが、企業家の役割なのです。
企業家は古典派経済学にとっては異分子でしかありません。
なぜなら、彼らは既存の枠組みには当てはまらず、普通とは全く異なるような方法や手段を使い、新たな価値を創造するからです。
ドラッカーは、未知の領域に立ち向かい、合理的な思考で、新玉価値を創造する者こそが企業家であると言います。
企業家とは、不確実な未知に立ち向かい、合理的に変化しながら利益を上げることができる能力・精神を持つ者、を指す
企業家はハイリスク?
一般的に企業家であることはハイリスクであると言われます。
しかし、ドラッカーは大きな間違いであると主張します。
例えば、現時点である程度の業績を収めているビジネスがあったとしましょう。
このビジネスをもっと上手に生産性高く行うことは重要ですし、多くの人はこちらに着目します。
しかし、既存の枠組みに執着することは、新たなビジネスチャンスを見逃し、企業が衰退するルートを辿っている可能性もあります。
市場の変化が激しい近現代において、変化に適応できないのは死を意味します。
既存のビジネスを強化することと、新たなビジネスを展開すること、両者のリスクを考えると、企業家精神を持って取り組むことがハイリスクではなく、むしろ既存のビジネスに固執することの方が危険であることが分かります。
ただ、企業家がリスクを伴うこともまた事実です。
なぜなら、市場や環境の初歩的な原理を守らないからです。
ルールも原則も存在しないフィールドで戦うことは、かなり難易度の高い行為です。
だからこそ、ドラッカーは起業家精神を体系化、マネジメントできるようにしたのです。
イノベーション
イノベーションと聞くとどのような物が思いつくでしょうか?
科学的な技術やテクノロジー、さらには日常的な部分にも当てはまるかもしれません。
イノベーションとはもともとシュンペーターが提唱した概念であり、新たな価値を創造する行為を意味します。
イノベーションとは、既存の資源から取得できる富の創出能力を増加させる行為、を指す
ドラッカーは、イノベーションが最先端の技術やテクノロジーを活用している必要はないと言います。
偉大なイノベーションとは、社会的な価値の創造であり、そこに技術力は関係がないのです。
イノベーションの具体例は、保険や病院、教科書にスマホなど、様々です。
重要なのは、新たなシステムや仕組み、構造などを用いて、新たな価値を世界に創造することなのです。
イノベーションのコツ
ドラッカーはイノベーションを成し遂げるためのコツをいくつも挙げています。
ここでは謙虚さと有用性を取り上げます。
謙虚さ
まず、イノベーションを自らの物とするには謙虚さが必要です。
多くの人は今までの仕組みや方法に執着し、手放すことができなくなります。
これまで慣れ親しんだ習慣ややり方を手放し、現状を認め、真摯に受け止めるための、謙虚な姿勢が大切なのです。
ニューヨークの大手百貨店であるメーシーズは、婦人服のイメージを抜け出せずにいました。
自らの作り出したイメージに囚われ、当時売上を伸ばしていたはずの家電売り場に対する評価を正当に受け入れられませんでした。
しかし、謙虚な姿勢で現状を把握し、今までの枠組みを離れて家電売り場を受け入れたことで、大きく成長しました。
一方アメリカのとある大手鉄鋼会社は、既存の高炉では売上を下げるだけだと分かっていながらも、新型電炉への移行を拒みました。
当時の状況を謙虚に受け入れる器の大きさが、その企業にはなかったのです。
結果的にその企業は衰退の一途をたどります。
有用性
イノベーションとは、突飛なアイデアだけで成り立つものではありません。
現実の市場にてしっかりと利益を出して初めて、それはイノベーションと呼ばれます。
アイデアを閃いてから、開発費を超える売上を出せるのは1/500とまで言われています。
企業家としては、イノベーションがしっかりと市場において売上を出すようにマネジメントをしなければなりません。
そこで重要なのは有用性なのです。
市場において売れるモノとは、革新的な物でも目新しいものでもなく、有用なモノです。
もっと厳密に定義するのなら、顧客が思考停止でも使え、彼らの労力とお金と時間を節約し、効用を与えてくれる、そんなモノです。
そして、有用性とは商品自体だけではなく、その販売方法やマーケティングまでを含みます。
例えば、世界初のジャンボジェット機を作ったのはデ・ハビランド社でした。
しかし、市場を支配したのは高価な商品を購入できる融資のシステムを作ったボーイング社とダグラス社でした。
素晴らしいアイデアがあればイノベーションを起こせる、という訳ではないのです。
イノベーションの機会
イノベーションの機会は日常生活に隠れていると、ドラッカーは言います。
彼は企業家精神の持ち主が注目する機会について以下のようなシーンを挙げます。
- 予期せぬ出来事が起こる
- 現実と理想にギャップがある
- 既存のプロセスに問題点がある
- 驚くような産業や市場の変化が起こる
- 人口構造が変化する
- モノの見方、感じ方、考え方が変化する
あなたの周りにも、イノベーションの種が転がっているかもしれません。
簡単でもいいので、想像してみることをオススメします。
ドラッカー「イノベーションと企業家精神」まとめ
ドラッカー「イノベーションと企業家精神」を通して、今まであまり注目されてこなかった、企業家精神とイノベーションの体系化を行いました。
彼の研究は、現在の経営学の土台となっています。
ぜひ参考にしてみてください😆
以下、記事のまとめです。
ドラッカーとは、オーストリアの経営学者である
- 彼は企業家精神やイノベーションなどの分野の体系化を行い、現代経営学の発展に貢献した。
- 企業家とは、不確実な未知に立ち向かい、合理的に変化しながら利益を上げることができる能力・精神を持つ者を指し、変化のスピードが早い現代においては重要な役割を果たす。
- イノベーションとは社会における新たな価値創出活動を指し、謙虚さと有用性がカギとなる。
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