資本主義を前提に構築された民主主義は、社会主義に移行する運命にある。
このような主張をした人物がいます。
ヨーゼフ・シュンペーターです。
彼は経済学者として、資本主義の不安定さとそれゆえの危険性についてを考察しました。
この記事ではそんなシュンペーターの著書「資本主義・社会主義・民主主義」について解説していきます😆
シュンペーターとは
ヨーゼフ・シュンペーター(1883-1950)とはチェコ生まれの経済学者です。
イノベーションが経済を変動させるという理論や、経済成長という概念を生み出した人物でもあります。
彼の著書には「資本主義・社会主義・民主主義」や「経済分析の歴史」などがあります。
シュンペーターは当時のオーストリア=ハンガリー帝国領だったトリーシュにて生まれます。
彼は名門校で教育を受けた後、ウィーン大学で法律と経済学を学びます。
1906年には博士号を取得し、グラーツ大学の教授に就任します。
その後はオーストリア共和国が誕生するとともに大蔵大臣や銀行頭取などの役職に就きます。
しかし、上手く馴染むことができなかった結果、1925年にはボン大学の教授に就任、アカデミズムの世界に復帰します。
1920年の終わりには、ハーバード大学に客員教授として招集され、その後は生涯をアメリカで過ごすこととなります。
シュンペーター「資本主義・社会主義・民主主義」の解説
「資本主義・社会主義・民主主義」(1942)はシュンペーターによって書かれた経済学書です。
資本主義が根本的に抱える問題点を考察し、資本主義の衰退と社会主義への変貌を予見しました。
以降、くわしく見ていきます。
不安定な資本主義
シュンペーターは、資本主義とは本質的に動的な性質を持つ、と主張します。
簡単に言うと、いつも変化し続けているので不安定である、ということです。
資本主義とは価格メカニズムに基づく計算をこなすだけの単純なマシーンではなく、変動し続ける過程なのです。
この過程に影響を与え、常に変化を強いるのは我々の心です。
無数の人々の様々な思考と行動を合計したものが資本主義を構成しているのです。
例えば、次にどんな市場が大きくなる、どんな商品がヒットする、などは誰にも分かりません。
予測不能であり、非直線的な性質を持っているのです。
だからこそ、資本主義社会の繁栄を目指すのであれば、明確な意志を持って変化に立ち向かわなければなりません。
創造的破壊
シュンペーターは資本主義の発展のための「創造的破壊」の重要性を説きます。
創造的破壊とは、経済発展のために新たな効率的な方法が生み出されれば、古い非効率的な方法は駆逐される、その一連の新陳代謝を指す
資本主義とは企業家がいるから繁栄します。
そして企業家は、絶えずにより良い社会を求める精神をもって、創造的破壊を繰り返し、変化し続ける社会に立ち向かう必要があります。
多くの人が安定を求める中、小さなチャンスを見つければそこに飛びつき、それを核に新たな事業を組み立てていくのです。
イノベーションによる創造的破壊こそが、資本主義社会に繁栄と活気を与えるのです。
人間性の欠けた理論
シュンペーターは資本主義の繁栄について研究するのと同時に、その欠点についてを探究します。
資本主義とは、人類が過去に何世紀もの間継続してきた部族的な社会制度を破壊し作られた、合理主義的・功利主義的な制度です。
このシステムは一見すると、社会の繁栄を加速させつつも、最大多数の最大幸福を達成しようとする、素晴らしいものに思えます。
しかし、シュンペーターはその問題点に注目します。
過去の部族的社会制度は、経済的に欠陥がいくつもありました。
平等思想はなく、集団としても繁栄はしていなかったかもしれません。
しかし、確実に個人の生きる意味と居場所を提供していました。
一方資本主義は、論理的には繁栄をもたらす素晴らしいシステムですが、その無情な理論ゆえに人間性には反しているのです。
社会のアトム化
資本主義は社会の繁栄を目指します。
そしてその繁栄のために、絶え間のない変化と創造的破壊の流れ、競争社会での闘争など、様々な不安定さを生み出します。
安定は存在せず、社会システムとして個人に居場所を提供してくれることもありません。
この不安定さが社会不安を生み出すのです。
シュンペーターはこれを資本主義体制での社会のアトム化と呼びます。
アトム化とは、個人が主体性を失い孤立してしまうことを指す
資本主義社会では個人主義化が進み、婚姻制度や家庭の価値観が崩壊していくのです。
多くの人は居場所を失い、社会不安の波にさらわれてしまいます。
官僚的な支配
人間は本能的に、不確実性や危険を減らしたがります。
多くの人は、資本主義的な不安定な社会制度を恨み、より安定を主張する社会主義的な思想に傾倒していくのです。
その具体例が官僚主義です。
人々の自然な願いと政府の干渉が結びつくことで、官僚主義化が進み、利益や資源はより平等に分配されていくのです。
また、平等を求める社会において競争を生み出すであろう企業家は、隅へと追いやられます。
シュンペーターは、企業家は何もすることがなくなり、賢い人は事業を辞め、別分野の目標を目指す、と考えます。
かつては個人のひらめきが世界の繁栄を担っていましたが、資本主義が衰退したら、それすらも非人格化されてしまうのです。
より平等を目指すと、安定は達成できるものの、社会は推進力を失っていくのです。
社会主義への移行
彼の意見をまとめましょう。
シュンペーターは、資本主義がいずれ社会主義へと移行する、これは必然的であると主張します。
そして彼の主張を支える根拠は以下のようになっています。
資本主義国家では、
- 革命の代わりに、官僚化と国有化が加速する
- 経済的不平等を解消し、景気循環による不安定さを減らすために、福祉国家や社会保障による保護はさらに拡大する
- 穏やかな社会において企業家は目立たない位置に追いやられる
シュンペーターへの反論
資本主義の衰退と企業家の消失というシュンペーターの予測は正しかったのでしょうか?
結論から言うと、これは外れました。
資本主義は現在もなお、社会の繁栄に向かっていますし、企業家も数多く登場しています。
現代ではGAFAと呼ばれる企業群が登場し、市場は常に変化し、生活の水準はますます上がっています。
シュンペーターの考えた世界の姿は、社会の繁栄を目指すが規制がなく不安定な資本主義か、社会の繁栄はないが安定する社会主義的な資本主義の2択でした。
しかし現実は、企業家を中心にイノベーションや創造的破壊をこなしながら、不安定さを最小限に収めるために画策する、というバランスを維持しています。
これからの世界経済が繁栄できるかどうかは、このバランス感覚を上手に保てるかどうかにかかっているのです。
シュンペーター「資本主義・社会主義・民主主義」まとめ
シュンペーターは彼の著書「資本主義・社会主義・民主主義」を通して、資本主義が内包する危険性について研究しました。
性質上、不安定さを保持している資本主義は、安定化を求める人々の意思を汲んで社会主義的な構造へと変化していく可能性があります。
また、彼の主張から学ぶべきことに、不安定さは繁栄の代償である、ということがあります。
繁栄を目指せば社会は不安定になる、安定を取れば社会は衰退する、この構図を理解したうえでバランスをとっていくことが大切なのです。
以下記事のまとめです。
- シュンペーターとはチェコの経済学者である
- イノベーションによる創造的破壊が社会を繁栄に導く、ただし、社会の繁栄を目指すほどに、社会不安が醸成されていく
- 人々は社会の不安定さを取り除くために、官僚的な支配を望むようになり、官僚的な支配は、社会主義への流れを強める
- 現実はイノベーションによる繁栄を目指しながらも、不安定さを最小限に収める施策を打つ、両者のバランスを取ることで成り立っている
- 現在でも資本主義が繁栄していることから、このシステム自体が有効であることが証明できる
ぜひ参考にしてみてください😆
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